キアヌ・リーブスはなぜ“平凡な家庭人”を演じたのか? 『ノック・ノック』出演の背景を考察

なぜキアヌは『ノック・ノック』に?

 そして、このネットの怖い部分を何より知っているのがキアヌだ。自分の知らないところで、自分が誰かのオモチャに認定される。そんなネットでありがちなことを、キアヌは身をもって知っている。皆さんも「サッド・キアヌ(悲しきキアヌ)」という写真を見たことがあるのではないだろうか。あのキアヌが一人でベンチに座っている写真である。パパラッチが撮影した1枚の写真、それも完全に気を抜いている時の写真が、瞬く間に全世界中を駆け巡り、「ネタ」になり、インターネットのオモチャになったのだ。サッド・キアヌはジョークの域を出なかったし、一部ではキアヌの好感度を上げることにもなった。しかし、本人としては驚きもあっただろうし、いつ掌を返されるかは分からないという恐怖も多少はあるはずだ。キアヌはスターだ。評論家やマスコミ、それに観客の態度が容易く豹変することを知っているはずだろう。そんなキアヌだからこそ、本作の主役にピッタリなのだ。ある意味で、究極のデ・ニーロ・アプローチである。キアヌは実際にネットのオモチャになった人なのだから。

 インターネットの普及によって、人と人のコミュニケーションは容易くなった。昔なら絶対に出会わないような人とも出会えるようになった。しかし、その一方で、自分がまったく予期せぬところで誰かの「ゲーム」に巻き込まれる可能性も高まった。そして、そういう「ゲーム」を常識を超えたレベルで仕掛けてくる人間も確実に存在するのだ。この映画で描かれる恐怖は滑稽で理不尽だ。しかし、ゾンビウィルスや拷問組織、食人族などよりも、ずっと身近に実在している。少なくとも、キアヌはそれに近い体験をしているのだから。

■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

 

■公開情報
『ノック・ノック』
6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス、ギレルモ・アモエド、ニコラス・ロペス
出演:キアヌ・リーブス、ロレンツァ・イッツォ、アナ・デ・アルマスほか
配給:日活
2015/アメリカ/99分/シネスコ/デジタル/原題:Knock Knock
(c)2014 Camp Grey Productions LLC
公式サイト:http://knockknock-movie.jp/

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