『海よりもまだ深く』初登場5位 是枝作品が浮き彫りにする、日本映画の興行規模問題

『海よりもまだ深く』の興行規模は妥当か?

 現在の日本映画を取り巻く環境における問題は、100スクリーン以下の小規模公開作品と、300スクリーン前後の大規模公開作品の間の、150スクリーン程度の中規模公開というのが構造上困難なところにある。今回の『海よりもまだ深く』はギャガ配給作品だが、特に東宝、松竹、東映といった邦画メジャー作品、あるいはワーナーのローカルコンテンツ作品だと、300スクリーン前後の公開規模が基本となってしまう。宣伝のリソースが分散してしまうことなど、いろいろ問題はあると思うが、もしその半分の150スクリーン程度の中規模公開作品が恒常的に成り立ち、その規模に見合ったヒットをすればロングランができるような仕組みができたら、日本映画界の風通しは画期的に良くなると思うのだが。日本映画のメインストリームのど真ん中でもなく、インディペンデントでもない、その中間の場所で孤軍奮闘している是枝監督作品は、そんな日本映画界の問題を突きつけてくる。

 ギャガ単独配給作品としてはマックスと言える244スクリーンで公開された『海よりもまだ深く』は、スタートダッシュこそ鈍かったものの、平日の映画館にはこれまで是枝作品にあまり来なかったような年配層の観客も多く詰めかけているという。今週末からは公開館数が減るとの報告もあるが、しぶとい興行を続けて、できるだけ多くの観客に届くことを願いたい。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)発売中。Twitter

■公開情報
『海よりもまだ深く』
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開中
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和
主題歌:ハナレグミ「深呼吸」(Victor Entertainment / SPEEDSTAR RECORDS)
出演:阿部寛、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、吉澤太陽、橋爪功、樹木希林
配給:ギャガ
(c)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/umiyorimo/

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