阿部サダヲが明かす、主演作『殿、利息でござる!』と「大人計画」の共通点

阿部サダヲ『殿、利息でござる!』を振り返る

「ほとんど毎日のように殿様役は誰なんだということで盛り上がっていた」

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ーー時代劇での映画主演は阿部さんにとって今回が初めてでしたが、撮影を振り返って新たな発見はありましたか。

阿部:9人の男たちが集まって町を救うというストーリーですけど、その周りにはいろんな人がいるというのをすごく捉えているんですよね。だから、みんなで作品を作っている感じがすごくして。映画が完成して、初号試写を観る時って、結構自分の芝居チェックみたいな感じで自分だけを観ちゃう場合が多いんですけど、そういうのがなかったんです。「みんなよかったな」と思いました。

ーー純粋に作品として観ることができた?

阿部:そうですね。「清志郎さんの曲で終わるんだ!」みたいなのもあって。それも全然知らなかったから、客観的に観ることができました。今回、中村監督がいっぱい仕掛けをしてくれたんですよ。萱場杢という、悪役のような存在を誰が演じるのかも途中まで知りませんでしたし。「松田龍平くんがやるんだ!」みたいな(笑)。殿役の羽生くんに関しては、当日まで誰がやるのか教えてくれませんでしたからね。リハーサルで初めて近づいて来るのを見て、「えっ!? 羽生くんじゃない?」という感じで。現場では、ほとんど毎日のように殿様役は誰なんだということで盛り上がっていたんですよ。僕らの中では最終的に、仙台の伊達だし、サンドウィッチマンじゃないかってことになっていて。「見てろ! サンドウィッチマンが出てくるから!」という、きたろうさんの強烈なプッシュによって(笑)。きたろうさんは監督にお伺いを立てる役だったんですけど、きたろうさんが監督に「この人じゃないですか?」って聞いた人の中に、羽生結弦くんがいたらしいんですよ。でも中村監督は芝居がうまいから、監督の反応を見たきたろうさんが「あの反応は絶対に違う」って言って、見事に騙されていましたね。

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阿部サダヲ

ーー監督は敢えて隠していたんですか?

阿部:みたいですね。だから、リアクションもリハーサルのときの印象を覚えておいてくださいと言われていて。殿様と庶民なので、あまりジロジロ見ちゃうと、頭が高いっていって切られちゃうぐらいの時代なんですけど。でも、やっぱり見ちゃうんだなっていうリアリティがありましたね。殿様だけが全然違うんですよ。きれいな格好してるし、羽生くん自体もきれいだったし、もう「すごい!」と思って(笑)。きっと当時もそういうリアクションをしたんだろうなという感じで、あのシーンはすごく楽しかったですね。

ーー羽生さんの演技はいかがでしたか?

阿部:すごかったですよ。だって最初からもう役に入っていたし、所作もすごくきれいでした。しかも、ちょっと自分でうまくいかなかったって思うと、「もう一度やらせてください!」って言ってやり直すこともありました。すごく向上心があるんですよ。フィギュアのときもそうですけど、本当に練習が大好きなんだなって思いました。お酒の銘柄を出すときとかも全然手が震えていなかったですし、さすがだなって。

ーー劇中では、「ケンカや争いをつつしむ」「計画を口外することをつつしむ」など、“つつしみの掟”が登場しますが、阿部さん自身は、常日頃からつつしむように心がけていることはありますか?

阿部:僕が所属している「大人計画」主宰の松尾(スズキ)さんから、お芝居をする時に、あまり頑張りすぎないほうがいいということを教わったんです。あまり力を入れすぎずに脱力していたほうがいいというのと、お芝居をしていることの恥ずかしさをどこかに持っておいたほうがいい。それがなくなると、逆に恥ずかしくなってしまうと。それは“つつしみ”かもしれませんね。

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ーー阿部さん自身は十三郎たちのように、下積み時代などに貧乏を経験したことはあるんですか?

阿部:当時はもちろんお金はなかったんでしょうけど、貧乏だった記憶はないんですよね。だからお金がなくて辛いみたいなこともなくて。今よりも仕事はなかったし、バイトもほとんどしていなかったはずなのに、みんなで飲んだりはしていて。一体どこにお金があったんだろうって不思議なんですけど(笑)。でも、劇団に入ってすぐに次々と公演があって、お金にはなっていないけど忙しかったんです。ありがたいことに、自主公演を自分たちでやっていいっていうのもあったし、宮藤さんとコントやったりとか、そういうのがずっと続いていたんです。

 何も目的がなければ辛いと思っていたのかもしれないですけど、目的があったから、辛いと思ったことも辞めたいと思ったことも全然なかったんですよね。大人計画の作品って、誰が主役とかではなくて、それぞれに見せ場があるような作品が多いので、そういう意味では、今回の作品とすごく似ていますね。みんなで一緒に作り上げていくという感覚を味わえる作品でした。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『殿、利息でござる!』
全国公開中
原作:磯田道史『無私の日本人』所収「穀田屋十三郎」(文春文庫刊)
出演:阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平ほか
監督:中村義洋
配給:松竹
(c)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
公式サイト:www.tono-gozaru.jp

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