松本潤『99.9』と木村拓哉『HERO』、弁護士スタンスの違い 窃盗事件を扱った第3話の狙いは?

 そして深山は、「それが弁護だとは僕は思いませんけど」と言い切る。これは少々一般論としての理想を突きすぎているのではないだろうかと思ってしまう。たしかに、有罪がほぼ間違いない事件において、無罪を勝ち取ったり酌量を得ようとして弁護側が少々度の過ぎた戦い方をすることが、現実でもしばしば起こり、世間的に注目されている事件では尚更それが疑問視されている。しかし、この深山の主張は、弁護士としての業務を放棄していることと同じに思えてしまうのである。

 繰り返し比較してしまうことになるが、『HERO』での木村拓哉演じる久利生公平も、ひたすら「事実」に執着して捜査する人物であった。しかし、それは必ずしも被疑者を起訴しなくてはいけないわけではなく、誤った判断で一人の人間の人生を狂わせてはいけない責任を負っていると自覚していたからである。いわば検察は事実追求をして然るべき存在であるのだが、逆に弁護士は事実の追求よりも優先して、世論を敵に回してでも依頼人を護らなければならない使命が伴う存在なのでは無いだろうか。たしかに、犯罪は常に弾劾されなければならない。だがその個人の処罰感情と、弁護士として刑事弁護を全うしなければいけないことのジレンマによって生まれる、「弁護士とは何をすべき存在か」という葛藤こそが、この種のドラマには必要なのでは無いだろうか。

 クライマックスの法廷シーンは、またしても真犯人を暴くために使われているとはいえ、第1話ほど浮いた感じには見えなかったのが救いである。きちんと結審の場面も入り、その後に古典的ながらも依頼人のドラマの結末を描いたことは、やはり今回の第3話で演出を務めた金子文紀のドラマ作りの巧さを感じる。ようやくラストになって、主人公深山の過去のフラッシュバックが登場したので、そろそろ彼が弁護士という道を選んだ理由も描かれてくるだろう。そうすれば、彼の弁護士としてのスタンスに対する疑問は多少解消されてくるのかもしれない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■ドラマ情報
『99.9−刑事専門弁護士−』
出演:松本潤、香川照之、榮倉奈々ほか
脚本:宇田学
トリック監修:蒔田光治
プロデュース:瀬戸口克陽、佐野亜裕美
演出:木村ひさし、金子文紀、岡本伸吾
製作著作:TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/999tbs/

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