シネコンは“単館系/ミニシアター系”の受け皿となり得るか? 『グランドフィナーレ』上映を考える

シネコンで単館系作品を上映するメリット

 シネコンに決定的に欠けているもの。それはシネフィルの「優越感」を満たし得ない空間であることです。ミシュラン3つ星のシェフの料理は、ショッピングモールのフードコートで提供されてもその実力を発揮できるでしょうか? 人間は何かを絶対的に計る装置ではありません。それを味わう場所や支払ったコスト、他者の評価やそのレシピに秘められた物語によって、受け止め方はまるで変わってしまうものです。壁ドン恋愛映画を見終わった女子中高生が、キャッキャ、ギャハハと騒いでいるロビーで、映画が始まる前に読もうとバッグに入れてきた純文学のページを繰れるでしょうか? それは難しいかも知れませんが、もし『グランドフィナーレ』をご覧になられる時に限って言えば、その嬌声は偶然にも作品理解を深めてくれるかも知れません。何しろ原題は『YOUTH(若さ)』です(笑)。

 シネコンは、ミニシアターに匹敵する「カルチャー空間」を創り得るか? これはシネコンにとってひとつのテーマになりえます。例えばいくつかのシネコンが挑戦して、特別な高級シアターや豪華座席を設けていますが、それは成功しているでしょうか? またその方向性は正しいでしょうか? 大作と並べることで、小さな規模の作品の間口を広げられるのは、ぱっと聴くとメリットしかないように思えますが、敷居が高いことこそ、その作品の価値そのものであるということもあります。ここから見えてくるのは、映画館の“売り物”は“映画”ではない、ということです。“映画”は製作会社や配給会社の“売り物”であって、映画館が売るべきものは、実は“空間”や“文脈”なのです。“文脈”とは、いい意味でも悪い意味でも、入りやすさや入りにくさだったり、劇場の考え方や様々な提供サービスや作品チョイスだったり、歴史があったり新しかったりという“背景”のことです。器で料理が変わるように、映画もまた、観る劇場で変わるのです。

 ここのところは掘ったらまだまだ深いので、またの機会に詳しくやりましょう。
 You ain't heard nothin' yet!(お楽しみは、これからだ)  

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

■公開情報
『グランドフィナーレ』
4月16日(土)新宿バルト9、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマ、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダ
原題:YOUTH/2015/イタリア、フランス、スイス、イギリス/124分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
(c)2015 INDIGO FILM, BARBARY FILMS, PATHE PRODUCTION, FRANCE 2 CINEMA, NUMBER 9 FILMS, C - FILMS, FILM4
公式サイト:http://gaga.ne.jp/grandfinale/

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