中国人の本質を見つめるジャ・ジャンクー監督の視点 大塚シノブ『山河ノスタルジア』推薦レビュー

大塚シノブ『山河ノスタルジア』評

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 現在、物質主義に傾く中国は、映画自体で描かれる文化も、どんどん現代風に形を変えて来ている。それに対し、私は寂しさも覚えている。そんな中、ジャ・ジャンクー監督は、不格好さも含めて、ありのままの中国人の日常というものを見せてくれる。富裕層も多く存在する現代、貧困に喘ぐ人々がどのようにもがき、生活しているかにも、もう一人の幼なじみリャンズー(リャン・ジンドン)を通して触れている。また中国人の習性としてのアバウトさも、この作品で垣間見ることができる。若かりしタオが冷えた自分の弁当を、働く店の売り物である電子レンジをさりげなく使い、客の前で平気で温め始めるというような行為は、日本人としては考えられないであろう。ただ私は個人的に、中国人のこのアバウトさに愛着があり、憎めないところでもある。よそゆき顔でない、そのままの自然な姿を映す。そこにこそ、ジャ・ジャンクー映画の良さがあると私は思う。そして中国の雑多な田舎の街並みに響く、サリー・イップの切なすぎる曲。庶民の生活を見据えた演出が、映画を呼吸するように魅せている。

 ちなみに余談ではあるが、タオを演じたジャ・ジャンクー監督のミューズ、チャオ・タオは、今やジャ・ジャンクー監督の実生活での妻でもある。そして、瑞々しい感性で息子ダオラーを演じたドン・ズージェンは、中国ではかなり著名な敏腕マネージャー・王京花(私も二度ほどお会いしたことがある)の息子である。

 深く物事を見つめる者の胸にこそ、突き刺さるような作品だ。

■大塚 シノブ
5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。以来、中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動。日本人初として、中国ファッション誌表紙、香港化粧品キャラクター、シンガポールドラマ主演で抜擢。現在は芸能の他、アジア関連の活動なども行い、枠にとらわれない活動を目指す。
ブログ:https://otsukashinobu5.wordpress.com/
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■公開情報
『山河ノスタルジア』
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
撮影:ユー・リクウァイ
音楽:半野喜弘
プロデューサー:市山尚三
製作:上海電影集団、Xstream Pictures、北京潤錦投資公司、MK Productions、ARTE、CNC、バンダイビジュアル、ビターズ・エンド、オフィス北野
出演:チャオ・タオ(『長江哀歌』『罪の手ざわり』)、チャン・イー(『黄金時代』『最愛の子』)、リャン・ジンドン(『プラットホーム』)、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャン(『恋人たちの食卓』)
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
2015 年/中国=日本=フランス/125 分
提供:バンダイビジュアル、ビターズ・エンド/オフィス北野
原題:山河故人
英題:Mountains May Depart
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/sanga/
(C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

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