デヴィッド・フィンチャーのターニングポイント、『ハウス・オブ・カード』の画期性について

『ハウス・オブ・カード』の画期性について

 もう一つは、そのパートナーが既存のネットワーク局やケーブル局ではなく、その当時アメリカ本国ではまだDVDの宅配サービス会社としての認知度が高く、世界的にはまだ名前も知られていなかった、ネット業界においてはベンチャー的なポジションであったNetflixであったことだ。その後のNetflixの急成長と、昨年の日本進出についてはご存知の通りだが、“Netflix時代到来”のまさに原動力となったのが『ハウス・オブ・カード』の大成功だった。

 ここで重要なのは、フィンチャーは単に映画界のトップ・ディレクターであるだけでなく、ミュージックビデオやコマーシャルの世界の出身ながら映画界で若くして絶対的な地位を築いたそのサクセスストーリーにおいても、唯一無二の美意識に貫かれたその作家性においても、デジタルカメラの可能性を誰よりも大胆に追求してきたその技術面においても、若手の才能ある映画監督たちにとって最も影響力のある映画作家であったことだ。「あのフィンチャーがドラマシリーズをやるなら、自分も」と、その後、多くの才能ある映画監督が雪崩を打つようにテレビの世界に参入していった。時代の潮目を変えた作品、それが『ハウス・オブ・カード』なのだ。

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 フィンチャーは最初の二つのエピソードを自ら演出した後、最新のシーズン4でも引き続き製作総指揮を務めているが、実質的にその役割は製作総指揮だけにとどまらない。その後、『ハウス・オブ・カード』の演出にはジョエル・シュマッカー(『セント・エルモス・ファイアー』『バットマン・フォーエヴァー』『評決のとき』など)やジェームズ・フォーリー(『摩天楼を夢みて』『パーフェクト・ストレンジャー』など)などのベテラン監督から、本作の主演女優ロビン・ライト、そして本作には出演していないジョディ・フォスターといった大女優が“監督”として腕をふるっているが、そこで貫かれているのは、最初の二つのエピソードでフィンチャーによって示された強固なフィンチャーイズムに他ならない。

 『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)に続いて『ハウス・オブ・カード』の冒頭の二つのエピソードを撮り終えた後、傑作『ゴーン・ガール』(2014年)で世界中から賞賛を受けたフィンチャーだが、彼のドラマシリーズへの情熱とその可能性の探求は今も続いている。現在、フィンチャーが取り掛かっているのは彼にとって王道のジャンルである、連続殺人犯を追うFBIエージェントが主人公のテレビシリーズ『Mindhunter』(原題)。『ハウス・オブ・カード』同様、オープニング・エピソードはフィンチャー自身の演出。2017年、世界中でその作品を配信リリースするのも、もちろんNetflixである。

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■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)発売中。Twitter

■配信情報
『ハウス・オブ・カード 野望の階段』
Netflixにて全シーズンを一挙独占配信中
(c)Netflix. All Rights Reserved.
Netflix:https://www.netflix.com/jp/

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