『とと姉ちゃん』第一週で3つの“嘘”が描かれたワケは? 幼少期エピソードのポイントを探る

 そもそも、物語の発端自体、旅行に行く約束を破るという、(結果的に)竹蔵が家族に嘘をついてしまう場面からはじまっている。そこに「贋作」、「布で作った桜の花びら」と嘘にまつわる話が続くのだが、第一週の中で、三回も繰り返されるのは、興味深い。

 竹蔵は、姉妹が「力を合わせて書いた傑作だ」と言って、絵を社長から買い取るのだが、三人が共同制作で“嘘”を作り上げたことが、おそらく雑誌編集者としての原体験となっていくのだろう。「暮しの手帖」の編集長となる花森安治は、戦時中は大政翼賛会の宣伝部に所属し、戦意高揚のスローガンを作ることで戦争に加担した。日本が勝つという“嘘”の物語に加担した花森がどのように描かれるのかは、今後、もっとも注目すべきポイントだろう。

 もう一つの注目すべきポイントは全体に漂うほがらかな雰囲気だ。脚本の西田征史はドラマでは『怪物くん』や『妖怪人間ベム』(ともに日本テレビ系)、アニメでは『TIGER&BUNNY』を手掛けた脚本家だ。元お笑い芸人ということもあってか、思わずにやけてしまうようなキャラクター同士のやりとりを描くことに定評がある。

 本作では小橋家の平凡だが、かけがえのない日常としてそれは描かれている。竹蔵は、「とと(父)の代わりになってほしい」と常子に遺言を残す。竹蔵の死後、強くなろうと常子は葬式でも泣かなかった。しかし、重圧に耐えきれずについに泣き出してしまう。そんな常子を優しく抱きしめる母と、二人を見守る鞠子と美子。

 4月8日に放送された『とと姉ちゃん メイキング』の中で、高畑充希は、常子一人ではなく、三姉妹と母親の「四人でヒロイン」だと、語っている。おそらく、物語は常子が父として家族を一方的に守るのではなく、未熟な四人がお互いに支え合うドラマとなっていくのだろう。常子が家族の前で「ととになる」と宣言した後、「こうして、“なんとなく”とと姉ちゃんは誕生したのです」とナレーションが入る。「なんとなく」という意外な言葉が入ることで、張りつめた緊張感が和らぎ、ほがらかなムードが全体を包む。

 『妖怪人間ベム』に「辛い時ほどチョコレートは甘い」という台詞があるが、つらい現実に立ち向かうためのほがらかさが、本作では描かれている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

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