フィリピンパブはいかにしてエンタメ映画の題材となったか? 『ピン中!』の社会的背景

『ピン中!』から読み解く社会の変化

 さて、そんなこんなの状況を受けての本作ですが、政治的に正しい人から怒られそうなタイトル(『ピン中!』)を引っ提げ、極めて全うなエンタテインメント作品・ラブストーリーとして成立しています。フィリピンパブの持つ歴史的・経済的背景といったある種の重苦しさや、日本人が抱く(なかなかどうして拭えない)ある種の差別意識といった諸問題は飛び越え、それら現実的事象は物語を構成する要素以上の意味は持ちません。

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(c)2016「ピン中!」影山塾

 これは、日本にフィリピンパブができて年数を経たことと、日本社会の変化に依るところが大きいと思います。つまり、日本人にとっても貧困は他人事ではなく、未婚率の上昇が象徴するように、非モテはどこにいっても誰にもモテないという事実が、現実的事象という背景の雑音を掻き消して、ようやく、人間対人間のドラマとしてキチンと成立できるようになったと言えるのではないでしょうか。(それが、日本という国家の衰退を意味しているとしても、グローバル化の厳しさを体現しているとしても)

 本作に登場するフィリピンパブのホステス役の俳優たちの演技がうまいかどうかは、カタコトの日本語ということもあって、正直よくわかりません。ただ、リアリティはあります。昔はハマらなかった私も、物語が進行するうちに、ドンドン可愛く見えてきます。あなたも、「ピン中」になってしまうかどうか、本作で試してみてはいかがでしょう? 新しい発見があるかもしれません。(蛇足ですが、ヒロインのジェーン役のコトウロレナは、フィリピン人ではなく、ルーマニア人と日本人のハーフなんですね…)

『ピン中!』
予告映像

■昇大司
1975年生まれ。広告代理店にて、映像作品の企画などを行う。好きな映画は『アマデウス』『ラストエンペラー』『蜘蛛巣城』など。

■公開情報
『ピン中!』
公開中
監督:金沢勇大
脚本:松久育紀、金沢勇大 
プロデューサー:林哲司、山家隆義(ハーキュリーズ) 
出演:柳沢慎吾、コトウロレナ、田代絵麻、巻野わかば、湯浅美和子、袴田裕幸、大久保鷹、五代高之、田中要次 
製作:影山塾
配給協力:アーク・フィルムズ
公式HP:http://pinchu.jp
(c)2016「ピン中!」影山塾

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