『いつ恋』第三話レビュー 先が予想できない“三角関係”をどう描いたか?

 普通の恋愛ドラマなら音の圧勝である。しかし木穂子からの長文メールで、すべてがひっくり返る。木穂子は広告代理店に勤めているがデスクの事務が本業で会社では親しみを込めて日陰さんと呼ばれていた。東京の大学に入って初めて付き合った彼氏とはうまくいかず「誰にとっても特別な存在になれないなら、そのつもりで付き合えばいい」と思い、今の不倫相手と付き合っていた。

 そして「私は朝起きると、まず、はじめに今日一日を諦めます」というナレーションとともに序盤に映された木穂子がビールを飲む場面が挿入される。そこから再び、練のために鍋や包丁やカーテンを買って、家に持っていく姿が映されるのだが、最初に感じた木穂子の印象は見事にひっくり返る。お金の力で練を繋ぎとめようという狡さは、もちろんあるのだが、その姿は切実で、音とは違うタイプの健気さを感じる。

 別れを切り出した不倫相手に、突き飛ばされて顔を怪我した木穂子と練は病院で再会する。殴られた顔を隠して「木穂ってわかると?」と、方言で話す木穂子の姿は、今までとは違う地味な姿で、魔法が解けたシンデレラのような痛々しさがある。しかし、素朴で優しい人間ばかりが登場する本作においては、自分から魔法を解いた木穂子は、恋愛においては音と対等か、それ以上の存在になったと言える。

 恋愛ドラマを見ていると「どうせ、主演の二人が最終的にくっつくんでしょ」と、醒めた目で見てしまうのだが、本作に関しては、誰と誰がくっつくのか、全く予想がつかない。それは、作り手が6人の主要人物に対して同じ密度で丁寧に描写しているからだ。

 だからこそ、登場人物全員を応援したくなってしまう。おそらく今後は、木穂子と音と練の三角関係に市村小夏(森川葵)も参戦するのだろう。女性の主要登場人物が全員、練を好きというのも極端だと思うが、それだけに、今まで見たことがないような恋愛ドラマになるのではないか。と、期待している。

参考1:『いつ恋』第一話で“男女の機微”はどう描かれた? 脚本家・坂元裕二の作家性に迫る
参考2:『いつ恋』第二話レビュー “街の風景”と“若者の現実”が描かれた意図は何か

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■ドラマ情報
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
2016年1月18日(月) 21:00~放送開始
出演者:有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎
脚本:坂元裕二
プロデュース:村瀬健
演出:並木道子
制作:フジテレビドラマ制作センター
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/itsu_koi/index.html

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