「喫煙シーンのある映画」へのWHO勧告をどう捉えるか 小野寺系が映画史を踏まえつつ考察

 一方で、今回のような規制が、演出においてプラスに作用する面もあるかもしれないという。

「昔、ハリウッドに“ヘイズ・コード”という規制がありました。それは主に性的なシーンに対して、ベッドシーンは描かない、過激なキスシーンを描かないなどの自主規制をすることによって、映画会社自体が強い規制を受けないようにしようという流れでした。ディズニーが喫煙シーンを描かないようにしたのと近いかもしれません。ヘイズ・コードの下で製作された映画では、上記のような男女のシーンを描くことができないということで、そういうことがありましたよと暗示させるような演出が加えられたりしました。それは、規制の中でうまくやろうという製作者たちの工夫によるもので、結果的に彼らの演出力に広がりが生まれました。このような副次的というか、面白い演出がいろいろと生まれたという意味では、プラスになった面は多少なりともあるでしょう」

 しかし、今回のWHOの勧告には納得できない部分もあると、同氏は続ける。

「未成年者の喫煙を減らしたいというWHOの理念は間違っていないと思います。しかし現状、喫煙自体は合法なのに、その表現を規制するのは垣根を越えてきている印象です。『ウォルト・ディズニーの約束』では酒を飲むシーンがたくさん出てきます。登場人物がアル中になって酒をがぶがぶ飲みまくるんですが、そっちはいいのかって思ってしまいます。健康被害をもたらすものや不道徳なものは世の中に多いですが、リアリティを求める映画でそれを描こうとするのは自然なことでは。例えば、ディズニーの『ピノキオ』という映画では、子供が葉巻を吸うシーンがあって、それを“悪行”として描いています。こうした表現まで規制されるのはおかしな話ですし、そこに線引きをするとして、そもそも誰がその境界線を判断するのかという問題もあります。今回のWHOの大雑把な勧告には、そういった細やかな部分が欠けていると思います」

 今回のWHOの勧告を、ハリウッドはどう受け止めるか。その動向によっては、日本の映画界にも影響がありそうだ。

(取材=編集部)

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