『いつ恋』第二話レビュー “街の風景”と“若者の現実”が描かれた意図は何か

 華やかな職業の男女が登場する恋愛ドラマを作ってきた月9だが、『いつ恋』の主人公の職業は介護ヘルパーと引っ越し屋だ。これは、あえてカウンターを狙ったというよりは、地方から上京した学歴もない若者が付ける職業は、介護や引越し業者のような肉体労働しかないという現実をそのまま描いた結果だろう。人手不足の中で肉体労働を連日強いられるのが今の介護の実態なのだということが、ごくごく当たり前のこととして描かれていること自体が、見ていて苦しい。
 
 しかし、こういった辛辣な現実の描写は、手段であって目的ではない。

 終電がないため、深夜バスで帰宅した音は、バス亭から家に帰ることになる。いつもなら通らない道。そこで金網に紐でくくりつけられている犬を見つける。その犬は、練が餌をあげていた犬だった。犬を助けた音は家に帰ろうとするが、疲労のあまり座りこんでしまう。そんな音の前に、犬を探していた練が現れる。思わず、「会えた」と二度つぶやく音。

「引越し屋さん。できたらでいいけど、名前教えて。電話番号教えて。私も東京で、がんばってるから」

 今まですれ違っていた二人が、ついに再会したのだ。

 坂元裕二が脚本を書いた『最高の離婚』(フジテレビ系)に、綾野剛が演じる上原諒が、婚姻届を出そうと区役所に向かう途中で、友人から行方不明になった飼い犬を捜してくれと頼まれるエピソードが登場する。一晩かけて犬を探し回った諒は婚姻届けを出し忘れてそのままとしてしまい、それが原因で、恋人との関係を悪化させる。

 『いつ恋』では逆に、犬を捜すことで音と練が再会する。これは第一話で、今まで坂元裕二が描いていた「届かない手紙」というモチーフを反転させて、手紙を届けることが練と音の出会いのきっかけとなったことに通じるものがある。『いつ恋』では、今まで坂元が描いてきた「断絶の美学」が見事にひっくり返されている。これが坂元の新境地か、より深い断絶を描くための前フリなのかは、まだわからない。第三話の予告では練が音に木穂子のことを「付き合ってる人です」と紹介する場面もあり、すんなり二人が結ばれるというわけにはいかないだろう。

 だが、一つだけ確かなことは、本作が描こうとしているのは辛辣な現実ではなく、それを踏まえた上でしか描けない、恋の奇跡だということだ。練たちを見守る仙道静恵(八千草薫)は、練のことを「あの子の周りには、寂しい子が集まってくるの。その分、一番寂しいのもあの子だった。だけど……」と、語る。

 この、「だけど……」の先に何が来るのか。恋の奇跡はまだ始まったばかりだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■ドラマ情報
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
2016年1月18日(月) 21:00~放送開始
出演者:有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎
脚本:坂元裕二
プロデュース:村瀬健
演出:並木道子
制作:フジテレビドラマ制作センター
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/itsu_koi/index.html

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