なぜ小学生がゾンビに? 過激コメディ『ゾンビスクール!』が風刺する現代社会

『ゾンビスクール!』が風刺する学級崩壊

 ナンセンスなジョークが散りばめられつつも観客を落ち着かせない、快・不快の渾然というのは、突如としてヴィンテージ感が強まる演出スタイルの変化を含めて、後半の不穏で無軌道な展開へとつながっていく。既存のジャンル映画に属するように見せて、全く違う世界とも接続していく感覚というのは、じつは近年のスリラー作品のトレンドでもある。この先頭に立つ先鋭的な作家といえば、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督、『ザ・ゲスト』のアダム・ウィンガード監督、『キル・リスト』のベン・ウィートリー監督などである。彼らの作品も、善悪の彼岸に立って、暴力と後ろめたさが複雑に混じり合った世界に観客を連れて行く。本作は現代のホラー映画、スリラー映画の最新の潮流のなかにあるのである。

 『バイオハザード』や『ワールド・ウォー Z』など、ごく一部の大作を除き、ゾンビ映画は基本的には低予算作品として制作される。ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』や『ゾンビ』などで、ゾンビ映画に格調高い芸術性を生み出すまでに先鋭化し得たのも、作り手の冒険が許される小規模作品ならではであろう。本作で主演を務めるイライジャ・ウッドは、自身が中心になって立ち上げた映画制作会社"Spectrevision"で、本作を含めた、このような実験的なジャンル映画を、2010年からせっせと制作し続けている。彼の最近の役柄の選択からも分かるが、著名な俳優ながら、変態的な趣向で映画を愛している、ある意味で信頼できる映画人である。そして本作でも、小学生たちがゾンビになるという、観客への分かりやすい入り口を用意しながらも、一方では新しい表現に向かっていくことを忘れていない。このように、映画界におけるゾンビ映画の実験的役割を十分に理解し、実践する姿勢こそが、本作『ゾンビスクール!』最大の価値であろう。そこに新しいゾンビ映画を作る意味が存在するはずだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。

『ゾンビスクール』一部本編映像
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(c)2014 Cooties, LLC All Rights Reserved

■公開情報
『ゾンビスクール!』
2月20日(土)シネマサンシャイン池袋ほか全国にて公開
監督:ジョナサン・ミロ、カリー・マーニオン
脚本:リー・ワネル、イアン・ブレナン
製作総指揮:イアン・ブレナン、リー・ワネル、ヘイデン・クリステンセン
製作:イライジャ・ウッド、スティーヴン・シュナイダー
出演:イライジャ・ウッド、アリソン・ピル、リー・ワネル
2014/アメリカ/カラー/シネスコ/88分/DCP/英語/原題:Cooties/R-15
提供・配給・宣伝:プレシディオ 協力:松竹
(c)2014 Cooties, LLC All Rights Reserved
公式サイト:zombieschool.jp

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