映画『珍遊記』は原作ファンを裏切らないーー漫☆画太郎作品への溢れるリスペクトを検証

映画『珍遊記』に溢れる原作愛

 小説の映像化とは違い、確固としてキャラクターのイメージが出来上がっている故に、二次元のキャラクターと俳優が演じるキャラクターとのギャップが埋められないのだ。また原作者の意向を反故にして、映画化された不幸な作品もある(そして揉めた)。今回の『珍遊記』でも、原作には登場しない溝端純平が演じる龍翔と呼ばれるキャラクターが登場し、それが結果としてストーリーの重要なキーパーソンになっている。

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 しかしそれは“原作愛”を放棄したわけではなく、本作に限っては荒唐無稽すぎて時に話の辻褄すら合わなくなってしまう画太郎作品の独特な世界観を、一本の映画としてまとめ上げる為に不可欠な要素として必要なものだったのだ。また自主映画時代からギャグのセンスとタイミングを身に着けてきた山口監督の卓越した編集が、画太郎作品独自のコマ割りをドラマチックな演出に昇華させている。原作と映画の微妙なバランスを絶妙なさじ加減で作り上げる術を心得た山口監督ならでは職人技なのである。

 誰もが躊躇する画太郎作品の実写化に対して、今回山口監督はお笑いトリオ「鬼ヶ島」のリーダーおおかわら、そして目下深夜のアニメ界を騒然とさせている『おそ松さん』の脚本を担当している松原秀の両氏を脚本に迎えた。この三人が“原作愛”をふんだんに盛り込んだ『珍遊記』が単なるナンセンス・ギャグ映画ではない事をその目で確かめてほしい。今こそ正しいギャグ漫画の実写化とはこういうものなのだ!という山口監督の魂の叫びを広い心で受け止める時なのだ。

■鶴巻忠弘
映画ライター 1969年生まれ。ノストラダムスの大予言を信じて1999年からフリーのライターとして活動開始。予言が外れた今も活動中。『2001年宇宙の旅』をテアトル東京のシネラマで観た事と、『ワイルドバンチ』70mm版をLAのシネラマドームで観た事を心の糧にしている残念な中年(苦笑)。

■公開情報
『珍遊記』
2月27日(土)より、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
出演:松山ケンイチ、倉科カナ、溝端淳平、田山涼成、笹野高史、温水洋一、ピエール瀧 ほか
監督・編集:山口雄大
原作:漫☆画太郎「珍遊記~太郎とゆかいな仲間たち~」(集英社刊)
脚本:おおかわら、松原秀
企画・総合プロデューサー:紙谷零
配給:東映
(c)漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会
公式サイト:http://chinyuuki.com

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