映画館にも“人格”は宿るのか? 映画館支配人が『もしも建物が話せたら』を観る

『もしも建物が話せたら』が描く建物の魂

建物もまた時を経て個性を獲得する

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オスロ・オペラハウス

 ロバート・レッドフォードが見つめるソーク研究所は、ポリオワクチンを発見したことで有名な最先端の生物医学研究所だ。この建物がインスピレーションを刺激する造りとなっていることは、研究者たちが良い仕事をする上で重要な要素であろう。その研究結果は世界に大きな影響を与える。マイケル・マドセンは再犯率が少ないことで知られるノルウェーの刑務所を取り上げる。懲罰より更生に重きを置くこの刑務所が存在することそのものがノルウェー社会の意志でもある。ミハエル・グラウガーが見つめるロシア最古の公共図書館であるロシア国立図書館は、本とともに生きた歴史を本の引用とともに語る。マルグレート・オリンはオスロのオペラハウスに「私は家だ。それなのに、あなたは私をそれ以上とみなす」と語らせる。まさに人々がただの家以上に大いなる魅力を感じる磁場がここにはあるからだ。それを建物自身がやや困惑気味しているという風に表現しているのも面白い。ただの家とは呼べないほどに、ここでは多くのパフォーマーたちが魂を燃やすように演技し、連日多くの観客が心を動かされている。そんな歴史がこの建物には蓄積している。

 どの建物も、そうした歴史の積み重ねが文化の香りをもたらし、人々をひきつける磁場を作っているのだ。パリのポンピドゥー・センターを撮ったカリム・アイノズ監督は建物に魂はあるかとの問いに「あると思うよ。人間の赤ん坊が、成長していく中で人格を得るのと同じように、時を経て個性が蓄積されていく」と語る。

 映画館にも時を経て獲得する人格があるのだろうか。あるとすれば、それは映画ファンがわざわざ映画館に足を運ぶ、大きな理由の一つかもしれない。本作は劇場で観賞した後、そんなことを思わせる作品だった。

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ポンピドゥー・センター

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『もしも建物が話せたら』
監督:ヴィム・ヴェンダース、ミハエル・グラウガー、マイケル・マドセン、ロバート・レッドフォード、マルグレート・オリン、カリム・アイノズ
制作・提供:株式会社WOWOW
(c)Wim Wenders (c)Wolfgang Thaler (c)Heikki Farm (c)Alex Falk (c)φystein Mamen (c)Ali Olcay Gozkaya
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/tatemono

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