名作ドラマの映画化に必要な3つの定石と、それを打ち破る『あぶない刑事』の現役感

『あぶない刑事』、映画化の背景を考察

 定年退職という設定や危険ドラッグという旬なネタはあるものの、荒唐無稽なストーリー(=漫画的リアリティ)と御都合主義の展開(=整合性<勢い)という、あの『あぶ刑事』の世界がグイグイ進んでいく。おなじみのレギュラーメンバーたちは、立場は変われど成長は無く、あの日のまま。そこには、“現在”との関係とやらに懊悩する姿は皆無。菜々緒・吉川晃司という豪華キャスティングや派手なカーチェイス・銃撃戦はあれど、それらも、この『あぶ刑事』の世界に違和感なくスッポリと内包されている。そして気がつけば、昔のように、あの『あぶ刑事』グルーヴに巻き込まれているのだ。

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(C)2016「さらば あぶない刑事」製作委員会

 ノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセは、「人は成熟するにつれて若くなる」と説いた。鷹山と大下の軽妙洒脱にみえる空気こそ、もしかしたら、この言葉を体現しているのかもしれない。劇中で大切なものを失ってなお、変わらないふたりの在り様は、成熟した者の若さと言えないだろうか。そんな若いふたりにとって、“現在”は、関係を模索する対象ではなく、今も自然と生き続けることができる場所なのだろう。

 公式ホームページに誇らしく書かれている「DVDマガジンの累計販売数120万部突破」という実績が、それを証明しているのだ。これまでのメンツでこれまで通りにつくること、それは『あぶ刑事』が今なお“現在”の作品であると、堂々と宣言しているに他ならない。

 見終わった後、鷹山と大下に「俺たちって、まだまだイケてるだろ?」と聞かれたような気分になった。もちろん、その答えは「YES」だ。

■昇大司
1975年生まれ。広告代理店にて、映像作品の企画などを行う。好きな映画は『アマデウス』『ラストエンペラー』『蜘蛛巣城』など。

■公開情報
『さらば あぶない刑事』
2016年1月30日 全国ロードショー
監督:村川透
脚本:柏原寛司 
音楽:安部潤
出演者:舘ひろし、浅野温子、仲村トオル、柴田恭兵、木の実ナナ、ベンガル、山西道広、伊藤洋三郎、長谷部香苗、小林稔侍、菜々緒、夕輝壽太、吉沢亮、入江甚儀、片桐竜次、吉川晃司
(C)2016「さらば あぶない刑事」製作委員会
公式サイト:http://www.abu-deka.com/

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