子役から映画界の巨匠へ ロン・ハワードが『白鯨との闘い』で示した作家性

ロン・ハワードの作家性に迫る

 歴史研究家でもあるナサニエル・フィルブリックの手によるノンフィクションでありながら、のちに「白鯨」を執筆する小説家ハーマン・メルヴィルをベン・ウィショーに演じさせ、エセックス号の数少ない生存者の一人である老人トーマス・ニカーソン(ブレンダン・グリーソン)に当時起こった出来事を聞き出すというメタフィクション的な構造を築き、映画としてのフィクションを巧みに盛り込んだ脚色も上手い。本作の脚本を最初に持ち込んだのはハワードではなく、『ラッシュ』を撮影中だった主演のクリス・ヘムズワースだったというのも興味深いが、不意打ちのように生存者たちの前に何度も襲い掛かってくる巨大な鯨と、過酷なサバイバルの末に彼らが選択した壮絶な真実は、映画の題材として捨てがたい魅力に満ちている。
 

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(c)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 が、しかし本作には他のハワード作品にも共通する少々残念な点も併せ持っている。オスカー受賞作『ビューティフル・マインド』でもラッセル・クロウ演ずるナッシュ博士の同性愛に関しては一貫して無視し、『ラッシュ/プライドと友情』でも映画本編の中で描かれていた以上にジェームズ・ハントは女性関係にだらしない人間であったことを描かなかった。本作でも、実は映画で描かれている以上に衝撃的な事実があったことを原作では描いていたが、本作ではそこはあえて(レイティングの影響も踏まえて)描いていない。史実を美化しすぎると指摘される点がハワードのウィークポイントでもあるのだが、本作のような凄まじく後味の悪い実話を映像化するよりも、観客に希望を与える結末を選択する。それがハワードの豊富な人生経験から学んだ技であり、ある種の映画愛なのかもしれない。
 
 何はともあれ、迫力に満ちた3D効果を堪能すべく、出来るだけ大きなスクリーン‥‥例えばIMAXシアターのような実物大のクジラをすっぽり包み込めるようなラージスクリーンで堪能するのがお勧めだ。

(文=鶴巻忠弘)

■公開情報
『白鯨との闘い』
2016年1月16日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:ロン・ハワード
脚本:チャールズ・レビット
製作:ポーラ・ワインスタイン、ジョー・ロス、ウィリアム・ウォード
出演:クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィー、ベン・ウィショー、ブレンダン・グリーソン
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:hakugeimovie.jp

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