菜々緒の“怖すぎる悪女ぶり”を描き切る『サイレーン』 最終回も大映ドラマ的演出で突っ走る?

 そんなカラがひたすら付け狙うのが、警視庁本庁機動捜査隊の木村文乃演じる猪熊夕貴だ。なぜ最初に猪熊に目を付けたのかは最終回まで謎だが、連続殺人鬼が猪熊の純粋無垢な正義感に憧れ、その正義感の高揚感を味わいたいという理由で仲良くなり、猪熊の正義感をギリギリまで試したところで殺害を企てる。まるでバットマンとジョーカーのような関係だ。猪熊の恋人であり同僚の里見偲(松坂桃李)だけがカラの異常さに気づき、追求していくというのがドラマの主軸になっている。裏表の無いカラリとした可愛さと正義感を感じさせる木村文乃の魅力は、菜々緒が持っている美とは対極に位置するからこそ、カラがそれを欲するというのは、非常に説得力がある構図だ。
 
 しかし、菜々緒の悪女が強烈すぎるため、松坂桃李の体をはったアクションも、木村文乃の美しい正義感も、変態美容整形外科医の要潤でさえ、印象が薄れてしまっている面も否めない。カラの策略に陥る警察たちがあまりにコミカルなのも、ドラマの好き嫌いが別れる大きな要因だろう。しかし見方を変えれば、こうした作風は70~80年代を中心にブームを巻き起こした大映ドラマのノリが現代に甦ったものともいえる。大映テレビが制作したこのドラマシリーズは、山口百恵の赤いシリーズを代表作に、『不良少女と呼ばれて』や『ヤヌスの鏡』、『少女に何が起ったか』や『スチュワーデス物語』など、ドラマ史に残る多くの名作を輩出してきた。笑ってしまうぐらい大袈裟な演出と荒唐無稽で熱いストーリー展開。出生に秘密を持つ謎の主人公が、虐められながらも幸せを手に入れるシンデレラストーリーが多く、昭和の風情を感じさせるドラマの王道的な演出が顕著に見られる。カラの出生の秘密、理不尽で荒唐無稽なストーリー展開など、大映ドラマとリンクする部分も多々あり、あの時代のドラマファンなら確実に楽しめるはずだ。
 
 さて、いよいよ最終回では、漫画とは違うと当初から発表されていたエンディングが明らかになる。第8話からドラマのオリジナル要素が多くなり、さらに先が読めない展開となっている。猪熊は、本性を表した殺人鬼と、美容整形外科医と共に、なんと1ヶ月も監禁された後の救出劇。このドラマチックな状況で菜々緒演じるカラは、果たしてどんな悪女ぶりを見せてくれるのか。ぜひ最後まで派手な展開で楽しませてほしいところである。

(文=本 手)

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