食人ブームの真打『グリーン・インフェルノ』に見る、イーライ・ロス監督の恐怖の原点

『グリーン・インフェルノ』が描く真の恐怖

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(c)2013 Worldview Entertainment Capital LLC & Dragonfly EntertainmentInc.

 我々はフィクションにおいて、「善い人」が「善い目」に、「悪い人」が「悪い目」に遭うことを期待しがちだ。因果応報、勧善懲悪、そこにはカタルシスがある。しかし、ロス監督はそこを意図的に外してくるのだ。ロス監督のスタンス、それは端的に言うならば「人間、死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。運があるかどうかであって、そこに本人が善良であるかどうかは関係ない」というものだ。これは現実では当たり前のことである。どれだけ善良に生きていても、不幸には見舞われる。逆に悪の限りを尽くしていても、特に何事もなく平和に…むしろ充実した人生を過ごす人間もいる。因果応報は現実では機能しない。このことは、誰もがそうは分かっていても、そう思いたくない本当の意味で残酷な事実だ。

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(c)2013 Worldview Entertainment Capital LLC & Dragonfly EntertainmentInc.

 しかし、ロス監督はその点を容赦なく描いてくる。この点こそ、ロス監督の映画の恐怖の原点であろう。多くの人間が抱える「善良に生きよう」という当たり前のことを揺さぶって来るのだ。『ホステル』の運よく脱出する被害者たちも、特別善良な人間だったわけではない。単に運が良かっただけだ。このロス監督のドライな視点は、本作『グリーン・インフェルノ』でも一貫している。最後の最後に用意された大ドンデン返しこそ、ロスの真骨頂だと言えるだろう。人間、生きるときは生きるし、死ぬときは死ぬのである。そこに道徳や人間性による補正は一切入らない。この点を容赦なく描くから、ロスの映画はシッカリと恐ろしく、どれだけユーモラスなシーンを入れながらも、完全なギャグにはならずに「ホラー」として成立しているのだ。

 そして、この洒落にならないほど重いスタンスを持っていながら、それを絶妙なバランス感覚によってエンターテイメントとして成立させてしまうからこそ、ロスは残酷映画の雄になりえたのであろう。『グリーン・インフェルノ』は、そんなロスの手腕がキラリと光る快作である。

■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■公開情報
『グリーン・インフェルノ』
11月28日(土)新宿武蔵野館ほか全国公開
監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス、ギレルモ・アドエド
出演:ロレンツァ・イッツォ、アリエル・レビ、アーロン・バーンズ、カービー・ブリス・ブラントン、スカイ・フェレイラほか
配給:ポニーキャニオン
2013/アメリカ・チリ/101分/シネスコ/デジタル/R-18+
原題:The Green Inferno
(c)2013 Worldview Entertainment Capital LLC & Dragonfly EntertainmentInc.
公式サイト:http://green-inferno.jp/

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