Netflixは日本のコメディー市場を切り拓くか? 『アンブレイカブル・キミー・シュミット』に見る大人のエンタメ性

『アンブレイカブル・キミー・シュミット』評

 笑えるけど痛い、皮肉たっぷりだけど愉快で、悲惨なシチュエーションほどおかしくて泣ける。アメリカのお家芸コメディーの秀作こそ、大人のエンターテインメントなのだ。他のジャンルと同じように、もっと身近に楽しみたい。というわけで、今回は浅くも深くも楽しめる、Netflixの旬のタイトル『アンブレイカブル・キミー・シュミット』(シーズン1全13話)を猛プッシュ!

 インディアナ州で中学生の時にカルトの教祖に拉致され、地下シェルターに連れていかれたキミー・シュミット(エリー・ケンパー)。核で世界は終焉を迎え、生きとし生けるものは死滅したと洗脳され、15年間、キミーは他の3人の女性と妙な格好をして社会と隔絶した共同生活を送っていた。が、ある日突然、救出されるところから番組は始まる。太陽の光のもとに出たキミーら4人は全国ネットのテレビに出演するなど、すっかり有名人になるも、他の3人は15年のブランクにびくびく。一方、とにかく前向きな29歳のキミーは新しい世界にわくわくしながら、ひとりニューヨークで生きていくことを決意する。

 大方の想像通り、キミーのニューヨークライフはトラブルの連続。お金は速攻で盗まれるという大都会の洗礼を受けるも、ヘンテコな大家のいるアパートで黒人でゲイのタイタス(タイタス・バージェス)とルームシェアすることになり、お金持ちだけど満たされない日々を送るエキセントリックなジャクリーン(ジェーン・クラコウスキー)の家でのアルバイトが決まるなどして、なんとかかんとか日々を乗り切っていく。

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 カルト教に洗脳されていたという設定に一瞬ぎょっとするが、そこがポイント。15年のブランクは、キミーが新たに生まれ変わった気持ちで人生を再生させることのメタファーでもある。29歳でゼロから始めて悪戦苦闘する姿は、大抵の大人の共感を呼ぶはず。また、拉致された時点から文明とは隔絶されていたため、カルチャーギャップが凄まじいのも仕掛けとしては楽しい。しばしば死語を連発し、会話に登場する映画ネタは80年代~90年代のヒット作と古い。満面の笑顔で青春映画の金字塔『ブレックファスト・クラブ』(86年)のラストのポーズを決めるシーンは爆笑ものだが、ある年代にとっては思わず泣けてしまうかもしれない。このあたりはキミーの年齢というより、1970年生まれのクリエイター、ティナ・フェイの趣味だろう。

 ティナは老舗バラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』(以下SNL)が生んだスーパースターで、皮肉に満ちた業界内幕もの『30 ROCK/サーティー・ロック』(NBC)を大ヒットに導いた才媛。SNL出身組にはほかにもジミー・ファロン、セス・マイヤーズ、エイミー・ポーラーなど現在のアメリカのTV界の顔ともいうべき才人たちがキラ星のごとく。とりわけ、今のコメディー畑ではクリエイティブな能力を発揮する女性の活躍が目立つ。前述のエイミーに、映画『ブライズメイド』やおデブのカップルが主役のコメディーシリーズ『Mike & Molly』のメリッサ・マッカーシー、体当たり芸で絶好調のエイミー・シューマーや『GIRLS/ガールズ』のレナ・ダナム等々。いずれも素晴らしい創造性と個性でTV業界を席巻している。その筆頭がティナで、日本ではわかりにくいが、お茶の間の人気者の認知度、影響力は絶大なのだ。

 ちなみに、モグラ・ウーマンとマスコミに呼ばれるキミーたちの救出劇を目撃した黒人男性の、「女ってのは強いよな ビクともせず生きてやがった まさに奇跡だ!」という証言が、そのままオープニングの歌になっている。これは本作が同じ厳しい業界で頑張る女性たち、ひいては全ての女性に対する応援歌であると受け取ることもできるだろう。

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