『ガンダムZZ』は背景に漂う諦念が持ち味? ギャグテイストの裏にある“大人への諦念”と“子供が戦う矛盾”

『ガンダムZZ』第六話レビュー

 多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。

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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第六話 ズサの脅威

[あらすじ]
 シャングリラコロニー制圧のため、Zガンダムの排除を焦るマシュマー。住民への被害も見越した強硬な作戦を取ろうとするが、マスコミを黙らせてコロニー内での被害を隠蔽するための資金として、シャングリラ市長のダマールによってさらに金を取られてしまう。

 一方、ジュドーたちはアーガマの中で昼食をご馳走になっていた。そこにブライトが現れ、ジュドーたちに「アーガマがこのコロニーを出るまで、自分達を手伝ってほしい」と申し出る。ジュドー以外のメンバーは承諾するも、ジュドーは「給料取りになるのはまっぴらだ」とブライトの申し出をつっぱねる。しかし、なけなしの食糧でアーガマのクルーが自分たちを接待していたことを知ったジュドーは、「勝手にしろ!」とアーガマを飛び出してしまう。

 マシュマーは新型機のズサでエンドラから出撃。建物が密集していない場所での戦闘を望むマシュマーは山手の方へと飛行し、ダマール市長の大邸宅の前に着陸する。マシュマーから騙し取った金を使ってシャングリラから脱出しようとしていたダマール市長だったが、ズサが着陸した衝撃で自慢のワインセラーを破壊され、あげく地盤ごと邸宅が滑り落ちる事態になってしまう。

 そんなズサのコロニー内への侵入をアーガマも探知。カミーユが入院している病院への被害を恐れるファは、メタスに乗って単独で出撃してしまう。さらにメタスを追うため、やむなくアストナージがZガンダムで出撃する。

 不慣れなZガンダムでズサと戦うアストナージ。しかしマシュマーの騎士道精神から出た隙をついてファのメタスがズサに飛びつき、2対1では不利とみたマシュマーは一旦戦いから離脱してガザC部隊による応援を要請する。

 Zガンダムとメタスの元へと赴いたジュドーと仲間たち。あくまでZガンダムには乗らないと主張するジュドーだったが、ファや仲間たち、リィナの説得により「もらった昼食の分だけは働く」という名目でZガンダムに搭乗し、より有利な13番地区へと移動する。

 ジュドーはジャンクで込み入った13番地区でマシュマーたちの部隊を襲撃。たった1機のZガンダムでガザCを撃破していく。しかしハマーンのバラが折れたことに激昂したマシュマーのズサによる攻撃を受け、一転してあわやというところまで追い込まれる。が、危ないところで突撃してきたメタスに助けられ、ズサを撃退することに成功する。

 シャングリラに近づきつつあるラビアンローズに向けて、アーガマはついに出港を決定。ジュドーはいまだアーガマのクルーとなることに対して抵抗する。一方、ダマール市長は腹立ちまぎれにマシュマーからさらに金をふんだくろうとするが、その目の前で広大な邸宅が崩れ去ってしまい、がっくりと膝をつくのだった。

 毎度毎度のマシュマーVSジュドー&仲間たち。これでもうマシュマーが戦うのも3回目なので、見ている方としても「またか……」という感じではあるのだが、マシュマーも気持ちは同じらしい。今まではハマーンの言いつけに従ってコロニー内での被害を避けようとしていたが、今回はZガンダム討伐のためならコロニーでの被害もやむなしと腹を括っている。

 そこにつけ込むのが、シャングリラ市長のダマールである。エンドラ入港の際にも金を受け取っていたが、騎士道精神一本槍で老獪さのないマシュマーに対して「対マスコミ用の工作費」という名目でさらに金を要求。さらにシャングリラが戦火に見舞われる前に自分と家族だけ逃げ出そうとするという、なかなか最悪なムーブを見せる。

 今回も『ZZガンダム』の前半戦らしく随所にコミカルな演出(バラを折られて激昂するマシュマーなど)が挟み込まれており、ジュドーがリィナにいっぱい食わされるオチも含めてライトな雰囲気が漂ってはいるのだが、同時にそこここに戦時の軍艦やコロニー社会の厳しさが織り込まれている。

 まずは、冒頭でブライトらがジュドーや仲間たちを懐柔するために昼食を振る舞うシーンである。紙パックに入った弁当のようなものをジュドーたちは食べているが、その後のファの話でわかるように、現在アーガマは食糧も人手も全く足りていない。そもそも戦力が充分だったらジュドーたちのようなジャンク屋の子供たちに手伝いは頼まないわけで、ジュドーが弁当をはたき落とした後の気まずさも含めて、アーガマの困窮ぶりが際立って感じられる。

 とはいえ、「ちょっとZガンダムの操縦がうまい」「なんだかニュータイプっぽい気がする」という程度の理由からジュドーたちを仲間に引き込もうとするブライトもブライトである。いつ戦闘になるかわからないアーガマに寄港地の子供を乗せて戦力にしようとするアイデアは、まともな軍人ならば躊躇するものだろう。毎回ギャグっぽいトーンになってはいるが、マシュマーとの戦闘はいつジュドーが死んでもおかしくないものなのだ。

 このあたりの「作品の背景として現実的な戦争を扱いつつ、主人公の子供を戦闘に巻き込まなければならない」という矛盾、そしてそれをどう処理していいか考えあぐねている気配は、初期『ZZ』の特徴だろう。毎度毎度Zガンダムに乗って戦っては「軍に所属して大人の言うことを聞くのは嫌だ」「給料をもらうのではなく、働いた分だけ儲かる生活を望んでいる」という理由でアーガマから逃げだすジュドーの姿は、「ガンダムシリーズという戦争を描いたロボットアニメの主人公として、新しい人物像を提示しなくてはならない」「陰惨で救いのない話にはしたくない」などの様々な要請からの落とし所を探っているように思われる。この「子供や女性のキャラクターを戦わせることの矛盾」という問題は、本作の7年後に放送された『機動戦士Vガンダム』でさらに暗く切迫した形で描かれることになる。

 また、この第六話で印象的なのは、コロニー内の格差がはっきりと描かれている点である。今までもジュドーの台詞にあった「山の手」というエリアは、見たまんまシャングリラコロニー内に造成された高台の上のエリアを指していた。ジュドーたちが住む下町と違い家一軒ごとに広い間隔が設けられており、見るからに高級住宅街といった風情である。

 スペースコロニーは100%人工的に作られた環境なので、内部の土地の高低差は自由に形成できるはずであり、土地の高低差は特別な理由がない限り不必要なはずだ。そしてもうひとつ、人間はコロニー外の宇宙では生きていけないため、人口が増えた場合には新しくコロニーを増設しない限りコロニーの内部はどこまでも過密になる。人口の増加が宇宙への移民を必要としたことは初代『ガンダム』の冒頭ナレーションで何度も説明された通りであり、多くの移民を受け入れることが前提であるならば、基本的にコロニー内は過密かつリソースの限られた環境なのではないだろうか。

 そんな環境下で「他のエリアを見下ろせる土地に、広大な邸宅を持つ」「邸宅の付近にワインセラーまで建てる」という行為は、地上で同じような豪華な暮らしを送るよりも多くのリソースを消費するはずである。コロニー内部の面積が限られている以上は収容できる人間の数も限られているはずであり、そんな状況下で限られた人々だけが広大な土地を所有している状況は、現在の地球に住む我々の感覚よりも大きな格差として人々に感じられているはずだ。

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