後追い世代も魅了した『黄金時代篇』の輝きーーちゃんめいの『ベルセルク論』

ちゃんめいの『ベルセルク論』

 世界中で愛読されるダークファンタジーの傑作漫画『ベルセルク』。作者の三浦建太郎が2021年5月6日逝去したことで未完となっていたが、かつて三浦を支えた「スタジオ我画」の作画スタッフと、三浦の盟友・森恒二の監修によって、2022年6月24日より連載が再開したことでも話題となっている。

 同作は後世に何を伝えたのか? 社会学者の宮台真司、漫画研究家の藤本由香里、漫画編集者の島田一志、ドラマ評論家の成馬零一、作家の鈴木涼美、暗黒批評家の後藤護、批評家の渡邉大輔、ホビーライターのしげる、漫画ライターのちゃんめいという9人の論者が、独自の視点から『ベルセルク』の魅力を読み解いた本格評論集『ベルセルク精読』が、本日8月12日に株式会社blueprintより刊行された。

 『ベルセルク精読』より、ちゃんめいによる論考「後追い世代も魅了した『黄金時代篇』の輝き」の一部を抜粋してお届けする。(編集部)

〝ベルセルク世代〞ではない私

 1989年に連載がスタートした『ベルセルク』。漫画を読むのに世代も年齢も関係ないと思うが、その2年後となる1991年に生まれた私が〝ベルセルク世代〞ではないことは明白な事実だ。漫画に初めて熱中した学生時代の頃を思い返すと、『ONEPIECE』『NARUTO』『BLEACH』などが快進撃を見せた2000年代初期の『週刊少年ジャンプ』だから〝ワンピ・ナルト世代〞という言葉の方がしっくりくる。

 そんな〝ベルセルク世代〞ではない私が本作と出会ったのは、高校1年生の頃だった。当時、たまたま通院していた病院の受付に、『ブラック・ジャック』や『医龍』といったいかにもな漫画が並ぶ中、『ベルセルク』と武骨なフォントで書かれた背表紙に心惹かれて手に取った。正直、1巻を読んだ時は、大剣を担いだ隻眼・隻腕の男にそこまで感情が動かなかった。それは、当時熱中していた海賊王を目指す男や、火影を目指す忍者の少年、死神代行の男子高校生たちの方がキャラクターが立っているように思えたし、それこそ『ベルセルク』と同じダークファンタジー枠なら『鋼の錬金術師』があった。

通称〝後追い購読の弊害〞を掻き消した「黄金時代篇」

 「黒い剣士」篇と呼ばれる1~3巻は言うなれば序章だ。身の丈を越える剣を担ぎ、大砲などを仕込んだ義手を持つ隻眼の男・ガッツ。〝黒い剣士〞の異名を持つ彼は、宿敵のゴッド・ハンドたちを追って、各地で使徒と呼ばれる魔物たちと狂戦士(ベルセルク)の如き戦いを繰り広げる。

 ガッツの行く先々では必ず血の雨が降り注ぎ、文字通りの地獄絵図が広がる......。まるでその凄惨な状況が匂い立ってくるような筆致に、くらくらするほどの衝撃を覚えた。だが、ガッツの義手と、努力型ではなく最初から最強というキャラクター設定や、ゴッド・ハンドたちを呼び出すトリガーとなるベヘリット、この2つからは『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックと賢者の石を。そして、ガッツのトレードマークにして『ベルセルク』の象徴である大剣は『BLEACH』の黒崎一護が担ぐ斬魄刀を彷彿とさせた。どちらの作品が良い悪いの話ではなく、ぼんやりとした既視感を感じてしまった以上、〝ベルセルク世代〞が味わったであろう驚きや高揚感を体感することができなかったのは明らかだった。

 私はこれを〝後追い購読の弊害〞と勝手に呼んでいる。周知の通り『ベルセルク』は、先ほど挙げた作品よりも10年以上も前に誕生しているため、むしろ本作がその先の漫画表現に大きな影響を与えたと考えるのが妥当で、彷彿とさせる矢印の向きは逆のはずだ。にも関わらず、現連載作品をベースにして読んでしまうため、本来の見どころや魅力である部分を充分に堪能できなくなってしまう。この経験以降、私のなかに「できる限り漫画はリアルタイムで読む(連載開始と共に追う)」という教訓が生まれたのはいうまでもない。

 だが、この〝後追い購読の弊害〞を掻き消し、私を『ベルセルク』に熱中させたきっかけが3巻後半から始まる「黄金時代篇」だった。時は、突如ガッツの生い立ちまで遡る。死んだ母親の骸から産み落とされた彼は、偶然通りかかった傭兵団に拾われ、幼少期から戦士として過酷な戦場を生き抜いていく。その後、育ての父を殺害したことで傭兵団を追われたガッツは各地の戦場を転々とするが、ある日、全ての始まりと言っても過言ではない傭兵団「鷹の団」と、その団長であるグリフィスと出会ってしまう。

続きは『ベルセルク精読』掲載 ちゃんめい「後追い世代も魅了した『黄金時代篇』の輝き」にて

■書籍情報
『ベルセルク精読』
著者:宮台真司、藤本由香里、島田一志、成馬零一、鈴木涼美、渡邉大輔、後藤護、しげる、ちゃんめい
発売日:8月12日(金)
価格:2,750円(税込)
発行・発売:株式会社blueprint
購入はこちら:https://blueprintbookstore.com/items/62de2f520c98461f50f0881e

■目次
イントロダクション
宮台真司 │ 人間の実存を描く傑作『ベルセルク』
藤本由香里 │ 三浦建太郎という溶鉱炉 -追悼・三浦建太郎-
島田一志 │ マイナーなジャンルで王道のヒーローを描く
成馬零一 │ 私漫画としての『ベルセルク』
鈴木涼美 │ 穢されないのはなぜか -娼婦と魔女がいる世界-
渡邉大輔 │ テレビアニメ『ベルセルク』とポスト・レイヤーの美学
後藤護 │ 黒い脳髄、仮面のエロス、手の魔法
しげる │ フィクションと現実との境界線に突き立つ「ドラゴンころし」
ちゃんめい│ 後追い世代も魅了した「黄金時代篇」の輝き
特別付録 成馬零一×しげる×ちゃんめい │『ベルセルク』座談会

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