連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年6月のベスト国内ミステリ小説

2022年6月のベスト国内ミステリ小説

 今のミステリ界は幹線道路沿いのメガ・ドンキ並みになんでもあり。そこで最先端の情報を提供するためのレビューを毎月ご用意しました。

 事前打ち合わせなし、前月に出た新刊(奥付準拠)を一人一冊ずつ挙げて書評するという方式はあの「七福神の今月の一冊」(翻訳ミステリー大賞シンジケート)と一緒。原稿の掲載が到着順というのも同じです。

 あっという間に梅雨が終わり、本格的な夏が到来しました。新型コロナの再流行も心配です。お部屋を涼しくして、読書をどうぞ。

千街晶之の一冊:結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮社)

 佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』も素晴らしい短篇集であり、6月のベストはこれにしようかとも思ったが、こういう時は「ミステリのみならず他のジャンルでも評価されそうな作品」より「とにかくミステリとしての評価が最初に来る作品」を優先させるべきだろうと考えて結城作品を推す。どの収録作も、すれっからしの読者の予想を先読みしつつその裏をかくどんでん返しの切れ味が抜群であり、リモート飲み会などの世相ネタの絡め方も巧い。優れたノン・シリーズ短篇集が幾つも刊行されたここ数年の中でも最高水準なのは間違いない。

若林踏の一冊:佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』(講談社)

 アステカ神話と犯罪小説が融合した怪作『テスカトリポカ』のように、佐藤究は意外な題材の掛け合わせで異形の物語を作り出す書き手だ。著者初の短編集である本書も、その掛け合わせの妙が生み出す化学反応を存分に楽しめる。前代未聞の爆弾サスペンス小説である表題作も良いが、ミステリファンにとっての必読は「九三式」だろう。江戸川乱歩の高価な古書を買う金欲しさに進駐軍が募集する仕事へ就こうとする男の話なのだが、小説冒頭に書かれた“ある事件”が絡むことで物語はとんでもない方向へと転がっていくのだ。何なんだ、これは。

野村ななみの一冊:そえだ信『臼月トウコは援護りたい』(早川書房)

 アイツが余計なことを言わなければ……! 自身の罪を暴く探偵に対し、多くの犯人はこう思うのだろう。その意味で、本書で探偵役を担うトウコほど「余計なこと」を言う存在もいないに違いない。

 収録されている連作4篇は、すべて倒叙ミステリ形式。どの作品でも彼女は、本心から被疑者の無実を援護しようと証言する。「〇〇は犯人じゃない、です」。その発言こそが、被疑者たちのアリバイを危うくするとも知らずに。相手を援護(まも)ろうするトウコと、余計なことを言う彼女を黙らせたい犯人。両者のやり取りがクセになるミステリである。

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