藤本タツキ原作『フツーに聞いてくれ』に感じた“必ず伝わる”という確信 漫画に対する批評を考える

※本稿には、『フツーに聞いてくれ』(原作・藤本タツキ、漫画・遠田おと)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 2022年7月4日、集英社の漫画アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」にて、原作・藤本タツキ、漫画・遠田おとによる読切作品『フツーに聞いてくれ』が公開された。

 藤本タツキについてはもはや説明不要かと思うが(念のため書いておくが、『チェンソーマン』、『ルックバック』、『さよなら絵梨』などの作者である)、遠田おともまた、漫画界がいまもっとも注目している新鋭のひとりであり、2019年末に発表した力作『にくをはぐ』は各所で絶賛された(のちに単行本化)。

 ちなみに今回の作品を作画するにあたり、遠田は(自身の絵柄ではなく)“藤本タツキの絵”を採用しているのだが、これは、(オリジナリティという意味では賛否両論あるだろうが)物語が求める最適な“文体”を選んだらこうなった、ということなのだろう(実際、遠田は『ちはやふる 中学生編』でも、末次由紀の絵にかなり寄せた作画をしている)。

プライベートな作品が深読みされて世界中に拡散

 さて、この『フツーに聞いてくれ』、同じ藤本作品の『ルックバック』や『さよなら絵梨』などと比べ、(枚数が少ないということもあるだろうが)物語の構成はいたってシンプルである。

 主人公は、好きな女の子へ直接告白する代わりに、YouTubeに(彼女のことを歌った)オリジナルのラブソングの動画をアップした少年。結果、彼女からは「ごめんなさい」と言われ、さらには、全校生徒にその動画を観られ、学校中の笑い者になる。だが彼の不運はそこで終わりではなかった。

 「2分48秒のところで停止すると幽霊が写っている」とか、「逆再生するとアメリカの銃社会への批判になっている」とか、「スペイン語に翻訳すると神の存在を否定する歌になる」とか……彼の動画は学校中どころか世界中に拡散され、人々は作者が意図しない部分で“深読み”と“新発見”を繰り返し、最終的に再生回数は4億を超えるまでになる。

 そんななか、動画を消せずにいた少年は(なにしろ怪しげな少女に、「動画を消すことは霊の怒りを買う」と“助言”されていたのだ……)、2曲目をアップする。タイトルは、「フツーに聞いてくれ」

 この“新曲”が、世間からどういう評価を受けたのかをここで書くのはよそう。だが、物語の最後で、彼は、この世でただひとり――自分の“歌”を届けたいと思っていた相手にだけは、それが正しく伝わっていたということを知る。

 そう、本作は、好きな人が実は自分のことを理解してくれていた――ただそれだけの物語だとも言える。それこそ、「フツー」に読めばだが――。

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