『明日、私は誰かのカノジョ』(明日カノ)はなぜブームに? ドラマ放送目前にその魅力を徹底解説

『明日カノ』はなぜブームに?

※本記事は『明日、私は誰かのカノジョ』のネタバレを含みます。

 人気コミックアプリ「サイコミ」にて週刊連載されている『明日、私は誰かのカノジョ』(以下、明日カノ)の人気が拡大中だ。4月12日深夜より、毎日放送/TBS系「ドラマイズム」枠にて、実写ドラマ版が放送開始予定。元けやき坂46(欅坂46)メンバーの長濱ねるをはじめ、本作のファンであることを公言する有名人も多く、マンガ好きのなかでムーブメントといえる状況が続いている。

 本稿では、そんな『明日カノ』ブームに乗り遅れてしまった人のために、その魅力を解説したい。

共感を呼ぶ現代女性の肖像

 どこか投げやりで、“諦め”のようなニュアンスも感じるタイトルに象徴される通り、『明日カノ』では恋愛/性愛を軸とした現代女性たちの肖像と、それを取り巻く社会がリアルかつ痛烈に描かれている。

 物語は複数の主人公を据えたオムニバス形式で展開され、レンタル彼女、パパ活、整形依存、ホスト依存など、社会的な問題を含むテーマを背負ったヒロインたちが登場するが、それぞれに関係性があり、新章へとシームレスに移行するため、読み進めるごとに世界観が立体的になっていくところも面白い。彼女たちが生きている世界が像を結び、それが私たちが生きている社会と地続きのものだと感じさせられるのだ。

 各章の主人公たちは、最初は極端な性格に見え、読者の感情移入を拒んでいるようにすら思える。おそらく多くの読者は当初、「自分はもっと冷静に生きている」「性を売り物になんかしない」「ホストにハマることはない」と思いながら読み進めていくことになるが、細やかな心理描写と、適切なタイミングで明かされる“そうなった理由”の説得力により、やがて深く共感させられることになるだろう。自分自身を投影しなくても、実在する友人を応援するように、ときに叱咤するように、感情移入している読者は多い。

 例えば、第4章「Knockin’on Heaven’s Door」のヒロイン・真矢萌は、どこか達観していて、恋愛にも深い関心を示さず、行きつけのバーでくだを巻く、ホストクラブにハマりそうもない人物だ。「そういう人ほど深くハマる」というのはよく聞くところだが、そんな彼女が「ホストに貢ぐため、性風俗産業に従事する」というルートを辿る過程が極めてリアルだ。その変化に対する周囲の人々の受け止め方や、本人の切迫していく状況が細やかに描かれ、偶然の出会いと小さなきっかけで人生が劇的に変わっていく様子に、背筋が冷たくなる人も少なくないだろう。

各章のヒロインに見られる“欠落”と救い

 第5章「洗脳」で描かれた“ネット配信者/ガチ恋営業”をめぐる問題に象徴されるように、リアルタイムの社会状況を反映しながら、現実にありそうな物語が細やかに描かれていることも、共感を加速させる。そして、それぞれに問題を抱えるキャラクターたちに共感するほど、読者は心にダメージを負う場面も増えていく。しかし、そのなかで「救い」が感じられるのも、本作の人気の要因だろう。

 サブカルチャーに詳しいライターの藤谷千明氏は、「(『明日カノ』の)ヒロインたちは、“自分は世間一般の考える『幸せ』を受け入れるには欠けている”と感じている者ばかり」と、本作の特徴を分析する。

 その欠落は各章の主人公によって違い、例えば、第1章「killing me softly」の主人公であり、本作のトーンを決定づけた「白井雪」は、一見すると容姿端麗、社会人としての能力も高く思える大学生だ。しかし、過去のネグレクトと顔に残った火傷跡というコンプレックスから、決して他人に心を開かず、感情を徹底的に排除して、レンタル彼女のアルバイトに勤しむ日々を送っている。

 他方で、第2章「致死量の自由」の主人公·リナは、逆に他人に依存することでしか自分を保つことができず、パパ活を続けている。そんな自分と比較して、自立的で凛とした雪に憧れに近い感情を抱いており、このように、キャラクター同士の関係性のなかで、本人にとっては切実な“欠落”が相対化されることが、第三者である読者の救いになっているのだ。

 また、前述のように各章がシームレスに繋がり、物語に一区切りついたヒロインたちの「その後」の様子が伺えるのも、救いの一つだ。現行の主人公が抱える切実な問題に直面しながら、読者はこれまで愛着を持ったヒロインたちがそれぞれにたくましく、強かに自分の人生を歩んでいる姿に勇気づけられる。状況は劇的に好転していなくても、それぞれの問題に悩み苦しみ、ひとつの山を越えたヒロインたちは、それぞれに強く美しい。

 前出の藤谷氏は、「同じく『明日カノ』好きの友人と話していて、これは女性版ピカレスク(悪党モノ)と言えるかもしれない、という話になった」と語るが、そうした痛快さを持ち合わせていることが、本作が一部のコアなファンだけでなく、これだけ多くの読者を獲得している所以に思える。

ドラマの前に原作をチェック

 放送開始が迫るドラマ版は、雪役の吉川愛、リナ役の横田真悠をはじめ、整形に依存しながら自分にも他人にも厳しく生きる、第3章「1mm」の主人公・中谷彩(アヤナ)を演じる宇垣美里など、配役からファンの期待が高まっている。第一回からSNSで大きな話題になることは確実。その予習として、まずはアプリで原作『明日、私は誰かのカノジョ』を読んでおきたい。読み始めるとスマートフォンの画面をスワイプする手が止まらなくなる人も多そうなので、夜更かしにはご注意を。

トップ画像:(C)をのひなお/Cygames,Inc.

■『明日、私は誰かのカノジョ』
https://cycomi.com/fw/cycomibrowser/chapter/title/118
■サイコミ
https://cycomi.com/

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