シリーズ累計90万部『後宮の烏』 ますます盛り上がる後宮×ファンタジーの魅力を考察

『後宮の烏』後宮×ファンタジーの魅力考察

 後宮にまつわる要素の紹介が長くなってしまったが、ファンタジーの側面も見ていきたい。

 『後宮の烏』の序盤は、寿雪のもとに持ち込まれる幽鬼事件の解決を通じて、背景にある烏妃をめぐる謎という、より大きなストーリーをあぶり出す構成を取る。烏妃とは、夜と万物の生命をつかさどる女神である烏漣娘娘に仕えていた巫婆の末裔だとされている。だが、その真の役目は表の歴史からは排除され、隠され続けてきた。なぜ烏妃は、一人でいるよう強いられ、後宮に閉じ込められているのか。高峻は烏妃の謎を知ろうと、烏漣娘娘を祀る神祇官である冬官を訪ねる。閑職で、打ち捨てられたような古びた殿舎に身を置く冬官は、隠された歴史の鍵を握る存在で、以後もシリーズの中で興味深い役割を担っていく。

 1巻でも烏妃の秘密が明かされるが、これはあくまで序章にすぎない。シリーズが進むにつれて謎は新たな謎を呼び、はるか昔の初代烏妃・香薔と烏漣娘娘の関係性や、烏漣娘娘と白亀の神である鼇をめぐる神々の因果も彫り下げられていく。3巻からは、世界図と霄国地図、宮城内地図が掲載されるようになり、改めて歴史や神話にまたがる作品の壮大さが印象づけられた。

 シリーズの中でも5巻は、激動の展開という意味でも、ホラー映画を思わせる壮絶なクライマックという意味でも、強いインパクトを残す。『後宮の烏』は美しい小説だが、幽鬼にまつわる描写は時におぞましく、とりわけ5巻のラストシーンは作中でも屈指の凄まじさを誇る。

 シリーズものの小説は、巻数が進むごとに勢いが落ち、スケールダウンしていくものが少なくない。だが『後宮の烏』は、巻数を重ねる中でますます盛り上がりをみせていく。魅力的なキャラクターや、丁寧にはられた伏線、エピソードの積み重ねがみせる意外な展開など、物語の面白さと中華風ファンタジーの世界観を堪能できる快作だ。最新刊の6巻では、物語は新たな局面に突入し、有力豪族である沙那賣一族にまつわる秘密も明かされた。『後宮の烏』の世界がどこまで広がっていくのか、これからも見届けたい。

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