フクモトエミと考える、“人を傷つける覚悟”と優しい世界 四コマ漫画『ぼくはネコ』に込めた思いとは

フクモトエミが4コマ漫画に込めた想い

「自分だけじゃないんだ」と思えて早く眠れるように……

フクモトエミ(撮影:三橋優美子)

――個人的に「おなじじゃないよ」(9ページ)がすごく好きです。

フクモト:今って「自己肯定感を高めよう」とか「自分に自信を持とう」という考え方が割と主流になってきたと思うんですけど、そうあろうとしている人って「あの人は悩みがなくていいよね」とか「きっと悲しいことなんかないんだろうな」って思われちゃうこともあると思うんですよね。それと「怒ったほうがいいよ」とか「もっと自分の感情を素直に表現したほうがいいよ」とか言う人もいるじゃないですか。確かに怒ってもいいとは思うんですけど、怒ることで誰かを傷つけてもいいっていうことじゃないよなと思ったり、でもそれをそのままTwitterでつぶやいたらそれはそれで揉めるよなとも思ったり……みたいなときに描いたやつです(笑)。

――そのモヤモヤしているものを共有できている感じがとても心地良いですよね。ちなみに友人にもこの作品を見せたんですが、もう5ページの「かんたんにいえない」で「ともだちのつくったパンケーキ」というフレーズにやられていました(笑)。

フクモト:パンケーキって、私にとって幸せの象徴なんですよ。たぶん、その原風景は日曜日の朝に作ってもらって、お父さんとかお姉ちゃんとかと一緒に食べた思い出で。そういうゆっくりした時間に食べるおいしいものっていうイメージなんですよね。しかも、コンビニとかではなくて、好きな人が作ってくれるっていうのがさらに幸せじゃないですか。

――象徴といえば、この「ぼくだけのくろいいぬ」(32ページ)も示唆的ですね。

フクモト:うつ病を黒い犬って表現しているのを知って、ネコも黒い犬と仲良くしたらいいんじゃないかと思って描いたお話です。私自身もうつ病で心療内科に通っていた時期があるんですよ。でも、私のように考えすぎみたいな性格だからこそ作れるものがあるんじゃないかって言ってくれる人もいて。だったら、うつ病になった経験も可愛がっていけたらいいなって思ったんですよね。もちろん、病気にはならないほうがいいんだけれど、そういうふうになっちゃう性質を持っていることは全然悪いことじゃないから。

――そういうふうになる自分も受け入れていくのは難しいけれど、仲良くなれたほうがやさしく生きていけそうです。

フクモト:そうですね。どうしても人間って、朝があって夜があるみたいに気持ちも一定ではいられないと思うんです。「もう夜はそういうものだ」「これは寝るしかないんだ」みたいなことをだんだんわかってきたところもありますね。このあとがきには、すごくいい感じに書いてるけど、要は「早く寝た方がいいよ」っていうことなんですよ(笑)。こういう悲しい夜もあるけど、とりあえず寝るかみたいな。この4コマ本に刺さる人って、繊細だったり、考えすぎだったり、言いたいことを言えなくて生きづらい部分を抱えていたりする人たちなのかなと思っていて。そういう人が、こういうことを考えているのは自分だけじゃないんだなって、早く眠れたら、それが一番嬉しいです。

――このネコのお話は、これからも続いていくのでしょうか。

フクモト:続けたいですね。今回は、ネコの自己紹介的な1冊というイメージで。といっても、ネコは最初の「すきなたべもの」を伝えるところからうまくいってないですけど(笑)。できれば、もうちょっと登場人物を増やしていけたらなって考えています。今はネコに共感する人が多いと思うんですが「自分はともだちくんのほうが近い」って思ってもらえる人が増えたり、「自分はこっちのタイプだな」って読む方が自分を投影できるキャラクターが増えていったら楽しそうだなって。

――それは楽しみです! ちなみに、フクモトさんの「すきなたべもの」はなんですか?

フクモト:え、んー、やっぱり考えちゃいますね。「今はこの気分だけど、もしかしたら明日になったらちょっと変わってるかもしれないし……」とか考えると、「これです」ってなかなかすぐには言えなくて。私、いつも最後の晩餐なら「納豆かけごはん」って言うんですけどね。ただ、この暑い日に納豆かけごはんを出されたら、「ちょっと今日は違うんですけど……」みたいな気もするし。それに「納豆かけごはん」って言ったら、イメージが強すぎて、すごい納豆かけごはんの人になっちゃうかなみたいな。もうちょっとなんか、おしゃれなの言った方がいいかなとか、いろいろ考えると……。やっぱり1時間くらいかかりそうです。

――ネコと一緒ですね(笑)。この『ぼくはネコ』は、フクモトエミさんご自身の自己紹介本でもあるんですね。

フクモト:そうですね。この文庫本サイズでシリーズ化していけたらと思っていますので、ネコ共々よろしくお願いします。

フクモトエミ(撮影:三橋優美子)

■書誌情報
『ぼくはネコ』
発売日:2021年7月28日
レーベル:コドモメンタルBOOKS
価格:1,364円(+TAX)
https://books.codomomental.com/book/005/

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