"VR小説”は特殊設定ミステリーとの合体技で新たな鉱脈に? 『クリス・クロス』から『SAO』まで、その変遷を追う

「VR小説」の変遷とこれから

 さて、このような流れとは別に、VRを題材にしたミステリーにも目を向けたい。一1986年に刊行された、岡嶋二人の『クラインの壺』のような、先駆的名作もあるが、以後、こちらも散発的な発表に留まる。

 「ソードアートオンライン」シリーズの「ファントム・バレット」篇が、VRMMO「ガンゲイル・オンライン」の世界でアバターが撃たれると、現実世界のプレイヤーが死ぬという、魅力的な不可能犯罪を扱っているが、ミステリーとして話題になることはなかった。残念なことである。

岡崎琢磨『Butterfly World 最後の六日間』(双葉社)
岡崎琢磨『Butterfly World 最後の六日間』(双葉社)

 しかし今年(2021)に刊行された、岡崎琢磨の『Butterfly World 最後の六日間』によって状況が変わりそうだ。システム的に誰かを傷つけることのできないVR世界「Butterfly World」。そこで隠れるように存在している紅招館では、ログアウトしない人々が暮らしていた。ところが館の住人が、次々と謎の死を遂げる。やがて現実世界の謎も加わり、事態は混迷を極めるのだった。

 VR世界の独自のシステムが、強烈な謎を生む。これは現在の日本ミステリーで流行している特殊設定ミステリーといっていい。ちなみに特殊設定ミステリーとは、現実世界とは違う規則や法則を持つ世界を舞台にした作品のことを指す。まさにVR世界は、特殊設定ミステリーにうってつけなのである。そして本書の成功により、VR世界を何らかの形で使ったミステリーは増加するはずだ。なぜならVR世界の設定によって、斬新な謎やトリックが幾らでも作れるのだから。

 現在、VRゲームやVR世界は、私たちの手の届く距離にある。だからVRを題材にした作品は、これからさらに増えていくことだろう。技術の進歩により世界が広がる。それは現実だけではなく、フィクションでもいえることなのだ。

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