『珈琲いかがでしょう』『凪のお暇』コナリミサトが語る、心地よく生きていくために 「時が経てば誤作動が正されるはず」

コナリミサトが語る、心地よく生きるために

 空気を読みすぎて生きづらくなった日々を身の丈の暮らしにリセットする『凪のお暇』。欠落した人生を1杯の珈琲を通じて取り戻していく『珈琲いかがでしょう』。同棲していた恋人に去られたことをきっかけにDIYに目覚めていく『黄昏てマイルーム』……。

 人が抱える影の部分を直視し、そこから生まれる新たなライフハックを示していく作品たちを生み出してきた漫画家・コナリミサト氏。一体、どのようにしてこれらの作品が描かれているのか、気になっている方も少なくないはず。

 そこで今回は、本人へのインタビューを実施。作品が生まれた背景から、コナリ氏自身がより心地よく生きていくために心がけているヒントを聞いた。(佐藤結衣)

「いい人」「悪い人」と固まっていない人間味を大事に描く

コナリミサト『凪のお暇』(A.L.C・DX)
『凪のお暇』©コナリミサト(秋田書店)2017

――『凪のお暇』では節約術で日々を彩ったり、『珈琲いかがでしょう』では珈琲を淹れて心を落ち着けたりと、コナリミサト先生の描く作品には1人でもできる人生の楽しみ方が多く登場しているように思いました。先生ご自身も、1人遊びは得意なのでしょうか?

コナリミサト(以下、コナリ):そうですね。1人で楽しむことがもともと好きなので、何か滲み出ているのかもしれないですね。でも、『珈琲いかがでしょう』に関しては、もともと全然違う話だったんですよ。プロットを作っていたときは珈琲バリスタチャンプ達の(『ドラゴンボール』の)天下一武道会みたいな感じにしようかなって思っていたので。でも、それにしなくて本当によかった。絶対全然描けなかったと思います(笑)。

――(笑)。そこから、珈琲を主軸にしたお話になったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

コナリ:友人に珈琲にすごく詳しい子がいて。その子に珈琲豆の種類の話とか聞いていたので、それをテーマにしたオムニバスにしたら面白くなるんじゃないかなと思ったんです。

――『黄昏てマイルーム』でもペットボトルを使って珈琲を淹れるシーンがありましたね。

コナリ:意外といけるんですよ、ホット用のペットボトルを使えばお湯の温度にも十分耐えられるんです。面白いので、ぜひやってみてください。

――作品が生まれた順でいくと『珈琲いかがでしょう』のほうが『凪のお暇』よりも早いんですよね。ドラマ化されたのが『凪のお暇』→『珈琲いかがでしょう』の順だったので、ゴン役を務めた中村倫也さんをイメージされて『珈琲いかがでしょう』の青山が生まれたのかなと思えるくらい似ていると話題になりました。

コナリ:当時は中村さんを主演にドラマ化なんて思ってもいませんでした。でも、似ているという声をいただけて光栄でしたね。私は手グセでタレ目の男性を描きがちなのですが、ゴンがタレ目だから、慎二がツリ目、青山がタレ目だから、平がツリ目……みたいな感じで、簡単な区分けで顔は決めています。

――目といえば、真っ黒な目だったり、3本線のような瞳だったり……目の表現がすごく印象的だなと感じていたのですが、こだわりがあるのでしょうか?

コナリ:目が死んでるって言われることが結構ありますね(笑)。最近『凪のお暇』の本編のほうで、ゴンの自我が芽生えてきたところなので、目の中に光を入れるように工夫はしているんですけど……。過去作を見ていくと、私の絵柄って頻繁に変わっているんですよ。「飽きちゃったから、こっちの目にしよう」みたいに、コロコロと。だから、適当な感じの棒の目になってるときもあって。『珈琲いかがでしょう』のときは、女の子のキャラが瞳孔開き気味です。病んでいるときとか特に。

――そうですね。全体的にコミカルなタッチかと思いきや、目の描写でゾクッとすることが多くて。キレイじゃない人間の部分や、人物の持つ二面性がうまく目で表現されているなといつも思っています。

コナリミサト:うれしい。ありがとうございます。やっぱり人間って、いい人、悪い人って固まっている人っていないと思っているんですよ。悪い人に見えて、実はいい人だけど、やっぱり悪い人……っていう感じじゃないですか。そういうところを大事に描いていきたいなと、いつも思っています。

煮詰まったときの解決法は、納得がいくまで歩くこと

――『珈琲いかがでしょう』の青山も、最初は癒やし系のさわやか男子かと思いきや、読み進めていくうちに欠落した目で人を殴り倒すヤクザだった過去が明かされて驚きました。

コナリ:だいぶ前のことなのでうろ覚えなんですけど、最初はヤクザにするつもりはなかったような記憶が……。でも、読み返してみたら第1話から結構悪い顔がチラ見えしているなと思いました。

――最初から詳細な設定を決めているのではなく、描きながら結末まで盛っていくというスタイルですか?

コナリ:私はそのタイプだと思います。ぼんやりと「ここに着地できたらいいな」っていう構想はあるんですけど、作劇のロクロを回しながら「ええい、これもくっつけてしまえ!」「あ、これのこと忘れてた」みたいなことも結構あって(笑)。

――そうなんですね。では、よく漫画家さんがおっしゃっているような、「キャラクターが脳内で勝手に動き出す」という現象もあるのでしょうか?

コナリ:私、今まではそんな体験できないんだろうなと勝手に思っていたんですけど、最近その感覚を知ったところです。キャラに対して「そんなこと考えてたの? なら早く言ってよ!」とか思っちゃって。私が期待する方向に動いてくれないことも……。私が作ったキャラたちなはずなのに、まいったなって。

――神の視点で思い通りに動かせるものじゃないんですね。

コナリ:そうなんです。今月の『凪のお暇』も、ようやくネームが上がって、「動いてくれた〜」と思っているところです。漫画家になったら、好きに物語を動かせると思ってたんですけどね。『トムとジェリー』の追いかけっこみたいに、捕まえたと思ったらスルスルって逃げられる感覚です。待てこの野郎~!!みたいな。

――不思議ですね。こちらの意のままに動かそうとすると、納得がいかないという感じですか?

コナリ:そうです。でも、どこが納得いっていないのかは教えてくれないんで困りました、本当に。ずっと考えて、何が納得できない部分なのかを見つけていかないといけないんですよ。

――煮詰まってしまったとき、気分転換に何かされることはありますか?

コナリ:散歩ですね。自宅から仕事場までの道を歩いて、考えをまとめようとするんですけど。仕事場が近づいて、道路のタイルの形が変わるところがあって。『カイジ』で大金をすったとき、線がグニャってなるんですけど、あれみたいなタイルになるんですよ。「ああ、何も思いついていないのに、もうカイジロードに入ってしまった……あ〜!」って、もう1往復するみたいな。

――カイジロード(笑)。ご自宅と仕事場を分けられているんですね。

コナリ:はい、あえて仕事場を借りました。適度な雑音がある方が集中できるので、もともと喫茶店でネーム作業をしていたのですが、ちょうど『凪のお暇』がドラマになったころ、店員さんにコナリミサトだとバレてしまって。それまでクールな接客が心地よかったのに……。しかも私、ネームをやっているときって本当に掃除機の中のゴミみたいな、どうしようもない格好でやっているものですから。「なんか変なあだ名とかつけられてるはず!」って被害妄想してしまって仕事場を借りることにしました。今はYouTubeとかに上がっている「カフェの雑音」とか「ブラジルの海外留学気分のカフェ」みたいなフリーBGMを流しながら作業をしています。

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