『おかえりアリス』は押見修造最大の問題作だーー“歪な関係”を際立たせる手法を考察

押見修造『おかえりアリス』を考察

『おかえりアリス』で描かれる慧という存在

 最新作『おかえりアリス』の主な登場人物は、幼稚園からの幼馴染である亀川洋平、室田慧、三谷結衣の3人。主人公の洋平は成長するに従って結衣に恋心を抱くようになるのだが、ある日結衣が慧に告白している場面に遭遇して以来、その気まずさと嫉妬から慧や結衣と距離を置く。そうしているうちに慧は北海道に転校してしまい3人はバラバラになってしまうのだが、高校生になったある日、ロングヘアを靡かせ女生徒の制服に身を包んだ慧が現れ、洋平と結衣を翻弄していく……という物語だ。

 自分の本当の気持ちを伝えることも、嫉妬心をあらわにすることも出来ず、ただ黙って慧や結衣と距離を置いた洋平は、やはり今までの押見修造作品の主人公と同様に自己肯定感が低い主人公なのではないだろうか。また、洋平と慧、結衣の関係性も今までの押見修造作品で描かれてきた”歪な関係”そのものだ。

 そんな本作で一番注目して欲しいのは「僕は男を降りただけで 女になりたいわけじゃないから」と言い放ちながら、女性の姿で再び洋平と結衣の前に現れた慧だ。本作を押見修造最大の問題作と感じさせた理由こそが、このミステリアスな慧の存在だ。

 慧が男を降りた理由は明かされていないが、1巻で慧は”女”として洋平がひた隠しにしてきた性欲を、最新刊となる2巻では”男”として結衣の人間的な浅はかさをあぶり出す。性別に囚わないからこそ慧は両性を巧みに操り、自己肯定感の低い主人公のみならず、ヒロインである結衣の本性も開放していくのだ。

 今までの押見修造作品と同様に自己肯定感の低い主人公、そして”歪な関係”という条件が揃いながらも、慧という存在によってこれまで以上に大胆に登場人物たちの本性が開放され、押見修造の作品の中でも先鋭的な作品となっている『おかえりアリス』。

 洋平と慧と結衣、この3人の”歪な関係”はまだ始まったばかり。ぜひ、押見修造最大の問題作だと感じさせる所以である慧の存在に注目してみてほしい。

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