異世界転生よりも“VRMMO”が痛快? 『シャンフロ』に惹き付けられる理由

『シャンフロ』に惹き付けられる理由

 『ソードアート・オンライン プログレッシブ』のシリーズで現在、「アインクラッド」編のエピソードが描かれ直しているが、ゲーム内のダメージが現実の生死にも関わってくるとあって、ヒリヒリとした緊張感が全体を彩って心を締め付ける。だからこそ『SAO』は人気になったとも言える。対して『シャンフロ』は、逆にお気楽かつ陽気に、さまざまなゲームを体験しては心から楽しんでいる奴らの姿が、読む人をもっと気楽に生きようと思わせる。

 もっとも、さすがにその姿はないんじゃないのと言われそうなのが、主人公のサンラクが『シャンフロ』内で選んだアバターだ。何しろ半裸で鳥頭。『SAO』のキリトのようなイケメンからもほど遠いサンラクが主人公では、いくら活躍しても人気なんて出ないんじゃないか。そんな心配もあった。

 ところが、『シャンフロ』シリーズは「週刊少年マガジン」誌上で好評を博し、連載が続いている。なぜか? 想像するなら、サンラクがたとえ遊びであっても真剣に、『シャンフロ』や他のクソゲーに挑んでいる熱さに、読者が魅せられてしまうからだろう。

 現実世界ではサンラクと同じ高校に通う女子生徒で、『シャンフロ』内では「最大火力(アタックホルダー)」の異名を取る「サイガ-0」として無双している斎賀玲がサンラクを好きになったのも、楽しそうにゲームに向かう姿を見染めたから。そして読者も、VRゴーグルをかけていなくても読むだけでVRMMOの世界に連れて行ってもらえるところに惚れている。そこが人気の理由なのかもしれない。

 漫画では『シャンフロ』が主戦場となっているが、ネットでの連載では別の対戦ゲームなどに挑んで、全米一のプロゲーマーが率いるチーム相手に大暴れするシーンも描かれている。不敵な美女といった佇まいのペンシルゴンが、そのゲームで見せる非道きわまりないプレーは果たして漫画にできるのか。そんな興味も浮かんでくる。

 まずはサンラクの活躍ぶりを見守りつつ、共に『シャンフロ』の世界を、そして他のクソゲーの世界を歩んでいこう。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書誌情報
『シャングリラ・フロンティア ~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』1〜4巻(KCデラックス)
原作:硬梨菜
漫画:不二涼介
出版社:講談社

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