35歳、子どもなし、セックスレス……悩める女性たちの新たなバイブル『それでも愛を誓いますか?』の魅力

『それでも愛を誓いますか?』レビュー

 本作の醍醐味は、前述したようにリアルを描きつつ、心をときめかせる場面もあることだ。

 23歳の真山は、人とのコミュニケーションが苦手で仕事中もずっとマスクをしている。ひとまわり年上の純と知り合ってからも、最初はゲームアプリのチャットを使わなければスムーズに会話できない。

 だが真摯に物事に向き合い、フラットに自分を見てくれる純は彼の気持ちを変えていく。

 真山はいわゆる「オタク青年」で、恋愛経験が乏しくピュアだ。もし真山が30代男性であれば、女性読者の受ける印象も変わったかもしれない。だが、彼はまだ20代前半。純と、彼女よりひとまわり年下の男性の関わりは、本作のときめき要素になる。

 そして武頼の元カノ・沙織は、教師として働きながら一人で子どもを育てている。業務時間が終わっても来る生徒の親からの連絡や苦情、生徒を優先するあまり教師のメンタルを慮れない勤務先の学校、ひとりで子育てをするストレス……。

 疲れ果てた沙織は武頼に救われることを望むようになる。 純と同様に、沙織も孤独感を抱えている。最初悪役に見えた沙織は、物語が進むにつれて読者の印象が変化するキャラクターだ。彼女は鬱屈とした現実から逃れたいのだ。

 本作はリアルと非日常が融合したストーリーだ。もちろん純の世界は結婚生活やほのかな恋愛要素だけではない。35歳の女性にとって、仕事は自らの選択肢を増やすために欠かせないものだ。真面目な純が、どのように会社で認められ、自信を持てるようになるのか。

 経済的な自立は精神的な自立に繋がる。これは年齢や結婚しているかどうか問わず、すべての男女に言えることだ。結婚生活、仕事、恋愛、介護。純たちの抱える悩みは、読者に通じるものがある。「電子コミックと言えば過激な描写が多いもの」という先入観を打ち砕くような、繊細なタッチで物語は進んでいく。

 純を励ます誰かの言葉は、読者への贈り物でもある。苦しみ、あがいたとしても、必ず救いはある。立ち直るために誰かの力を借りることもあれば、自分の力で立ち上がることもある。純は、私たちなのだ。

 『それでも愛を誓いますか?』は続いていく。純は、武頼と夫婦関係を続けるのか、離婚して真山と新しい恋に落ちるのか、それとも一人で生きる道を選ぶのか。

 純がどのような結論を選んだとしても、読者はきっとそれを受け入れることができる。そこに至るまでの純の葛藤を、自分のことのように味わっているからだ『それでも愛を誓いますか?』は女性たちの新しいバイブルなのだ。

■若林理央
フリーライター。
東京都在住、大阪府出身。取材記事や書評・漫画評を中心に執筆している。趣味は読書とミュージカルを見ること。

■書籍情報
『それでも愛を誓いますか?(5)』
荻原ケイク 著
定価:本体630円+税
出版社:双葉社

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