「小説家は儲かる職業」 松岡圭祐が明かす、ベストセラー作家の収入とその創作メソッド

松岡圭祐が語る、小説で稼ぐ方法

個人としてつきあう社会全体の代表が編集者

ーー「億を稼ごう」の章では、編集者との付き合い方についても丁寧に説明しています。あくまでも「編集者は味方である」との視点が強調されていますが、改めて、小説家にとっての編集者がどのような存在かを教えてください。

松岡:小説家は自分の空想に浸り、たった一人でそれを創作物にするという職業です。このため、自分の立場や固定観念でしか物事を考えられなくなり、偏見や先入観を抱きがちになります。視野が狭くなった結果、自分の過ちをなかなか認められなかったり、非合理的な考え方に固執してしまったりしがちです。小説家が必ずそうなるとは限りませんが、仕事内容からして陥りがちな、職業病の一種とも言えます。

 これらが悪化すると「編集者からミスを指摘されて怒る」「断固としてひとつのやり方にこだわる」「読者の感情を無視する」などの弊害が現れます。決して悪意がなくとも、小説家という仕事内容が、視野狭窄を引き起こしてしまうのです。

 さまざまな意見に耳を傾け、多角的なものの見方を有してこそ、現代的な小説家たりえるでしょう。

 小説家にとって編集者は、エグゼクティブプロデューサーであり、マネージャーであり、ビジネスパートナーです。個人としてつきあう社会全体の代表が編集者だと言っても過言ではありません。個人事業主たる作家はそのつもりで編集者と接するべきです。

ーー本書を読むと、松岡さんがKindleやnoteといった新しいサービスよりも、長い歴史を持つ出版業界の方を信頼しているように感じます。億を稼ぐなら、今なお出版業界を活用した方が可能性は高いのでしょうか。

松岡:あくまで現時点ではという話になります。テキスト配信サービスは、その著者のほとんどが今のところ「書籍化」、つまり紙の本になるのをおおいに歓迎しているように見えます。

 Kindleについては、ひとつの大きなヒットが世の概念を変えると思えます。いまは紙媒体から電子書籍への過渡期であり、出版界は一時的に停滞しています。過去にもあらゆる媒体は、文字(テキスト)による情報伝達が先に来て、次に視覚的伝達へと移り変わってきました。小説が漫画に、新聞がテレビに、テキスト中心だったインターネットが画像と動画中心に、というぐあいです。いずれも「最初は技術的制限により、文字による伝達しかなく、それが人気だった。だが視覚的伝達が台頭してくると、そちらが売れるようになり、文字による伝達は陰りが出てきた」という経緯をたどっています。

 しかし紙媒体が電子書籍に移行するにあたっては、技術の進展がめざましく、テキストのみの電子書籍が商売として成熟しないうちに、データ量の多い漫画や写真集までがどんどん売られるようになりました。映像メディアも発展し、動画配信もポピュラーになりました。電子書籍に関しては「今のところ活字しかないので活字を買おう」という時代がなく、特に文芸出版界はその恩恵を得られなかったのです。

 いずれさらなる技術革新がなされます。例えば「有機ELによる極薄の画面が、二つ折りにして持ち歩ける。大きさは文庫サイズ、重さは紙と同じ。ソーラー充電ができて、スマホにつながなくてもダウンロードできる」という電子書籍専用のハードウェアが出てきたらどうでしょう。出版物は完全に電子に移行し、手軽さからどんどん売れていくと思います。出版界はその時に息を吹き返し、新たなバブルを得るでしょう。その時には電子書籍と紙媒体の優劣は逆転します。紙の本は「永久保存版」のような高級品として少部数刊行されるのがスタンダードになるかもしれません。

ーーP39「貴方が『想造』によって紡ぎ出した物語は、貴方の性格や経験、知識、嗜好などが結合した、けっして他人には想像し得ないものになります。面白くないはずがありません」との一文からは、人は誰しもが小説家になる可能性を秘めている、という松岡さんの想いが感じられました。松岡さんが「貴方は小説を書いたほうが良い」と考えるのは、どんなタイプの人物でしょうか。

松岡:文章が書けるすべての方々のうち、小説を書きたいとお思いになった方々です。書きたくないと思う方はもちろん向いていませんが、書きたいと思う方のなかに、例外などあるはずがありません。すなわちご自身が「小説家になりたい」と思った時、否定する人はそれが誰であれ間違っています。

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