ヤンキー×SF『東京卍リベンジャーズ』はなぜ“読ませる”? 複雑なストーリーの中に光る、和久井健のセンス

『東リベ』をめくる手が止まらないワケ

 タイムリープによる歴史改変。これが本書の土台となっている。ところが、その土台の上で繰り広げられるのが、ヤンキーの抗争なのだ。現代で直人から頼まれたミッションを実現するためには、東京卍會に接近しなければならない。ここで面白いと思ったのが、武道が弱いことだ。喧嘩をすれば負ける。苦しくなったら逃げる。その結果が現代の底辺生活であった。

 だが、ヒナタを助けるためには、どんなにボコボコにされようと、逃げるわけにはいかない。その意地と覚悟が東京卍會総長の万次郎(マイキー)に認められる。だが、歴史が変わったと安心して現代に戻っても、やはりヒナタが殺されてしまう。しかも過去を変えるたびに、現在の状況が悪くなっている。この展開が強烈だ。過去での、さまざまな勢力との抗争でも、先の読めないストーリーが続き、ページを繰る手が止まらない。リーダビリティは抜群なのだ。

 しかも過去の抗争劇が面白い。マイキーを頂点とする東京卍會のメンバーは、誰もがひと癖ある魅力を放っている。龍宮寺堅(ドラケン)、三ツ谷隆、柴八戒、林田春樹(パーちん)、林良平(ペーやん)、松野千冬……。最初は彼らにビビッていた武道が、しだいに友情を抱き、東京卍會をかけがいのない場所と思うようになる。一方、抗争の最中で必死の行動をする武道を、周囲も認めていく。もちろん武道の行動は歴史を変えるためであり、そのことは他のメンバーには分からない(後にメンバーのひとりには打ち明ける)。それでも武道が、いつでも本気であることが伝わり、魂を共鳴させるのである。ヤンキー漫画らしい男同士の絆も、たっぷり楽しめるのだ。

 それにしても本作のストーリーは複雑である。武道は何度も過去に戻り、そのたびに現代の歴史が変わる。東京卍會を巡る人間ドラマも錯綜しており、巻を重ねるごとに物語の厚みが増していく。それでも読んでいて負荷を感じないのは、作者のセンスがいいからだろう。

 たとえば武道が過去に戻るとき、ミッションの目的が何であるか、端的に示される。これにより武道の行動を追うだけで、ストーリーの流れを見失うことがないのだ。激しい抗争に興奮し、歴史改変にワクワクする。ヤンキー漫画好きはもちろん、SF漫画好きにもお薦めしたい、ミックス・アップ作品なのである。

 なお本作は、現在、テレビアニメが放送中。また、7月には実写映画が公開される予定である。連載の方もクライマックスに突入しているようだ。とはいえ物語の着地点は、まだ不明。タイムリープに関しては、驚くべき事実があるように思えてならない。だから本作の愛すべき登場人物がどんな未来を迎えるのか、最後まで見届けたいのである。

■細谷正充
 1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

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