爪切男×せきしろが語る、思春期のモヤモヤ 「自販機で手にした本が、その後の人生の糧になった」

爪切男×せきしろ対談【前編】

せきしろ「ポップでいたいけれど、まだ叶っていない」

せきしろ:雑誌のほかは、ラジオにも夢中でした。ラジオは、小学生のときから『中島みゆきのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)を聴いていましたね。あとは地元・北海道の放送局の番組とか。ただ、うちってロシアが近いので……。

爪切男:もしかして、ロシアの放送が入っちゃうんですか?

せきしろ:そうなんです。ロシア語が波のように押し寄せてきて。その電波との戦いでした。家のなかでラジオを持って、どの場所が一番日本の放送が聴けるのか探すっていう。ニッポン放送はなんとか聴けたんですけども、TBSラジオはいっさい聴けなかったです。北海道でも、たぶん地域によって状況は違うと思うんですけれど。

 雑誌でも読者の投稿を読むのが好きでした。『少年サンデー』(小学館)ではとんねるずが「サンデーファン」という投稿欄を担当していて、特に好きでしたね。あとは『宝島』(宝島社)の「VOW(バウ)」とかにもハマっていました。

爪切男:せきしろさんとはプロレス以外にも色々と共通点がありそうですが、もしも我々が同級生だったら、どんな関係になっていたと思いますか?

せきしろ:どうだろう? でも、友だちになるんじゃないですかね。どこかで「こいつは面白いぞ」って気づくときがあると思うので。本当に面白い人は、1学期は面白くないんです。2学期ぐらいから本当の面白みが出てくる感じがあって。

爪切男:たしかに、1学期は様子を見ていたかもしれませんね。クラスメイトの性格なんかを冷静に分析して、「いや、自分はいま出るべきではない」とか考えながら(笑)。

せきしろ:体育でペアになるとか、何かきっかけがあれば話しかけると思います。僕はもともと、そんなに人に話しかけないタイプなので。

爪切男:体育でペアになるのは良いチャンスかもしれないですね。 学校生活ではそういうのが大事。大人になると友だちになるきっかけが本当に少なくなっていきますしね。

せきしろ:僕は友だちがいなきゃいないで大丈夫だったんです。必要がなかったというか。面白いなと思える人が1~2人いれば平気でした。「友情」みたいな、そういう熱いものへの関心もあまりなくて、おそらくクールな自分を演じている部分もあったんですよ。「そのほうがかっこいいのかな」って、よくわからない自意識で振る舞っていました(笑)。

 僕には未だにそういうところがあって、今日の対談も皆さんよりあえてちょっと遅れて来たんです。「そっちのほうがかっこいいかな」って完全に狙ってやったことでした。

爪切男:でも、ちゃんと時間には間に合っていますよね。オンタイムで始まっていますから(笑)。そんなせきしろさんが「かっこいい」と思う人ってどんな人ですか?

せきしろ:よく言うんですけど、昔から少女マンガに出てくる男性はかっこいいなと思っていて、あと「とんねるず」の石橋貴明さん。ずっとかっこいいんですよね。あの感じはマネしようとしていました。

爪切男:僕のヒーローは『ああ播磨灘』(講談社)ってマンガに出てくる横綱の播磨灘(はりまなだ)ですね。いや、『鉄拳チンミ』(講談社)も格好良いな。最近、先輩に「年をとってからもポップであることが大事だ」って言われたのが印象に残っていて、それで僕のなかでポップなヒーローって誰だろうと思ったら、『鉄拳チンミ』のチンミが浮かんだんです。僕がブルース・リーよりもジャッキーが好きっていうほうがわかりやすいかな。

 その「ポップさ」ってとても大事だと思っていて。ただ豪快というのも大事かもしれないけれど、それはするのは意外と簡単だし僕には似合わないから。ポップな感じを出しつつ、同時に常識はずれなことができる人はかっこいいなって思います。年を重ねたり社会的に偉い立場になったりしてもポップであり続けるっていうのは、なかなかできないことだなあって。

せきしろ:僕もポップな人が好きでしたね。

爪切男:石橋さんもそうですよね。「乱暴だ」って言われることがあるけれども、それをポップに昇華できるところがすごくて。

せきしろ:そうそう。ハリウッドザコシショウなんかも、ああ見えて芯はポップだから、人気者でいられると思うんですよ。

爪切男:思春期とか過去のことを楽しく書くというのもある意味「ポップ」だと思うんですよね。僕は絵も描けないし、他に何も表現できないから、文章で表現するしかなかった。

せきしろ:やろうとしなくても自然にポップな人っていますね。石橋さんもたぶん、ポップさを出そうとはしてないんじゃないですか。なんといえばいいのかな。狙ってはいないんだけれど、もともとポップな資質を持ってる人というか。

爪切男:いますね。そういう人にはかなわない。

せきしろ:自分にはなかなか真似できない存在です。だから少しでもかっこいい先輩のマネをするしかない。僕も本当はもっとメインストリームで活躍できるようなポップな存在になりたいんですけれども、まだ道の途中という感じです(笑)。

後編【「自分にはまだすごい才能が眠っているんじゃないか」 爪切男×せきしろが語る、人生の落としもの】に続く

■書籍情報
『クラスメイトの女子、全員好きでした』
爪切男 著
4月26日発売
定価:1,210円(10%税込)
仕様:四六判ソフトカバー 224ページ
出版社:集英社
購入はこちら:https://yomitai.jp/book/classmate/

『その落とし物は誰かの形見かもしれない』
せきしろ 著
4月5日発売
定価:1,430円(10%税込)
仕様:四六判ソフトカバー 160ページ
出版社:集英社
購入はこちら:https://yomitai.jp/book/otoshimono/

 

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