『今日も言い訳しながら生きてます』訳者が語る、現代社会を生きるヒント「言い訳力が高い人は、気持ちの切り替えがうまい」

韓国エッセイ本訳者インタビュー

 韓国人イラストレーター ハ・ワンが、40歳を目前に会社を辞め、人生を立ち止まって綴ったエッセイ本『あやうく一生懸命生きるところだった』。東方神起・ユンホも愛読していることを明かしており、韓国で25万部超のベストセラーを記録。日本でも多くの方が手にとった人気作となった。それから約1年、続編となるエッセイ本の翻訳書が発売された。タイトルは、ずばり『今日も言い訳しながら生きてます』。

 突然、人気作家として注目を集めてしまったことから、より多くの意見が飛んでくるようになってしまったハ・ワン。彼が、なんとか言い訳をしながら自分を保って生きていく姿は、きっと思い通りにいかない日々を過ごす、すべての人に共通するものだろう。コロナ禍もあり、ますますストレスや生きにくさを感じている今、深呼吸をするヒントになるはずだ。

 そこで今回は、前作に引き続き日本語訳を担当した岡崎暢子氏にインタビューを実施。翻訳の作業中に感じたこと、影響を受けた作品、さらに新しい生活様式の中での密かな楽しみについて、たっぷりと語ってもらった。(佐藤結依)

岡崎暢子

言い訳力=自分を納得させて次に進む力

――『今日も言い訳しながら生きてます』を翻訳する中で、難しさを感じた部分はありますか?

岡崎暢子(以下、岡崎):タイトルにもなっている「言い訳」の部分ですね。原著で使われていた言葉を直訳すると「合理化」になるんですが、少し日本語的には意味が伝わりにくい気がして。ニュアンスとしては「言い訳」のほうが馴染みのある言葉なんじゃないかと考えました。実は原著のタイトルも、そのまま訳すと『私は横顔のほうがもう少しマシなんですけど』なんです。でも、編集担当の方が「全体を通じて“言い訳”という筋が通っているので、日本語版のタイトルにはその言葉を使いましょう」と提案してくださって、このタイトルになりました。

――たしかに、この「言い訳」というフレーズが、「ん?」と思わず目にとまるというか。惹きつけられるきっかけになりますね。言い訳=してはいけないもの、という思いがあるので。

岡崎:そうですよね。「言い訳はするな」「歯を食いしばれ」的な風潮は今も根底にはあると思っています。ただ、私たちは日常的に言い訳をしながら合理化をしているんですよ。合理化って心理学では、自分を納得させる防衛機制の一つ。最も有名な合理化が、イソップ寓話の『すっぱい葡萄』だと思います。おなかをすかせたキツネがおいしそうな葡萄を見つけて、何度も取ろうとトライするのですが届かず「どうせこんな葡萄はすっぱくてマズい」と言い放って、悔しい気持ちを収めるお話です。言い訳力が高い人は、気持ちの切り替えがうまいとも言えるんじゃないでしょうか。

――岡崎さんご自身では、言い訳力は高いほうですか?

岡崎:自分では高くはないと思っていましたが、振り返ってみたら結構言ってるかもしれないですね(笑)。たとえば、すごく挑戦したかった仕事があったのですが、そのチャンスが自分には巡ってこなかった時。「あ〜ぁ」ってなりましたけど「今はやるタイミングじゃなかったんだ」と切り替えたり。あとは、大事なものを落としてしまったときに「自分の厄も持って消えてくれたんだろう」とか! 気持ちを軽くするための言い訳はしています。そういう言い訳は、どんどんしてもいいんじゃないかなって。

――ハ・ワンさんも自分が動けるようになるための言い訳をしているようでしたね。

岡崎:自分を自分で納得させるっていうのは、かなり大事なスキルじゃないかと思います。その言い訳でクスッと笑えたら、それはそれで幸せじゃないですか。その場も円滑になりますし、日本語に「嘘も方便」みたいなことわざがあるのも、きっと誰もが自分やその場を納得させる言い訳をしながら生きてきたからじゃないかと。肩の力をもっと抜いてもいいのかなと思いますね。

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