『今日も言い訳しながら生きてます』訳者が語る、現代社会を生きるヒント「言い訳力が高い人は、気持ちの切り替えがうまい」

韓国エッセイ本訳者インタビュー

様々な声が届くSNS時代を、心地よく生きるヒントも

――『今日も言い訳しながら生きてます』を、翻訳されたのはいつごろでしたか?

岡崎:2020年の晩夏です。ありがたいことに、ハ・ワンさんの前著『あやうく一生懸命生きるところだった』が好評で、立て続けに翻訳のお仕事をいただきまして。『頑張りすぎずに、気楽に - お互いが幸せに生きるためのバランスを探して』(ワニブックス)、『1センチダイビング 自分だけの小さな幸せの見つけ方』(宝島社)が終わった後に、『今日も言い訳しながら生きてます』の翻訳に取り掛かりました。あの夏、暑すぎて、水道水が熱湯のようになっていたのを思い出します。

――『今日も言い訳しながら生きてます』では、『あやうく一生懸命生きるところだった』がベストセラーとなった後、ハ・ワンさんの生活の変化についても描かれていました。お仕事が増えたという点では、岡崎さんのその後とリンクするところがありますね。

岡崎:そうですね。会社を辞めてからはフリーランスとして、インバウンドの制作物を作る仕事も請け負っていたのですが、コロナ禍でインバウンドの仕事が減ったこともあり翻訳の仕事に比重を置くようになりました。翻訳者としても、インタビューを受ける機会も何度かありましたし、アバタローさんやベルさんなど有名な書評YouTuberさんに取り上げていただいたり、『散歩の達人』の誌面で秋元才加さんに「翻訳者が好き」と言っていただいたりと……もう光栄過ぎる展開でした。

――ハ・ワンさんはベストセラー作家になったことで、称賛の声と共に、SNSで厳しい意見もあったという内容がありましたが、岡崎さんはいかがでしたか?

岡崎:私は裏方で地味にやっているので大して変わりないんですが、興味深いことがありました。『今日も言い訳~』の翻訳の前に、『私は私のままで生きることにした』が大ベストセラーになったキム・スヒョンさんの『頑張りすぎずに、気楽に』の翻訳も担当させていただいたのですが、その中にもベストセラー作家になったことによる心境が綴られていたんですよね。ただ、キム・スヒョンさんは、「周りの人にどう施したらいいんだろう」と悩んでいて、ハ・ワンさんは「自分の大事な部分を守るにはどうしたらいいんだろう」と頭を抱えていて、視線の向きは違いますが、どちらも「わかるな」と。これってスターに限らず、今の時代なら誰でもそういう対象になりうるので、人ごとではなく自分の話としても読めると思いました。

――ハ・ワンさんの反響に動じず「美しく生きたい」というフレーズに、SNSの便利さと距離感の難しさを感じました。岡崎さんはSNSと、どのように付き合っていますか?

岡崎:主にTwitterで、エゴサに使っていますね(笑)。本を読んでくださった方が感想を書いてくださるので。Instagramも読者層が違うので、ハッシュタグでたまに見たりして……。そういう情報収拾・発信用と、あとはテレビとかを見ながら「なんでこんなことになってるんだ!」と納得がいかないことを書いちゃう掃き溜め用の裏垢があります(笑)。たまに間違えてそっちに書くやつこっちに書いたりしちゃうんですけど。

――それは、大変な事故ですね(笑)。エゴサして、傷つく場面はありませんか?

岡崎:Twitterでエゴサをしている分には傷つくことは少ないんですね。ありたがいことに、本の感想を書いてくださる方は、基本的にポジティブな発信が多いので。ただAmazonのコメント欄とかではネガティブな声が集まりやすいなと感じています。『今日も言い訳~』にも書いてありましたけど、100回褒められても1回ひどいことを言われたら、引きずっちゃいますよね。私も、そういうコメントを読んで最初は「うー……」ってなりますけど、その読者さんがたまたま機嫌が悪かったということもありますし、気にしてもしょうがないなって思って……見ない(笑)!

――自分の中にどの情報を入れるか、入れないのかを選択するのも大切ですよね。

岡崎:本当、そうだと思います。ハ・ワンさんも最終的には「どんなにいいことが書いてあったとしても見ない」って書いていましたが、ありがたい声にまざってうっかり傷つく情報が入ってくることもありますからね。人の意見を全て受け止めるのも、難しいことです。

――そういう意味でも、この本は現代を生きるヒントがありますね。

岡崎:そうですね。ちょうど今朝、テレビを見ていたら、人付き合いの中で「2:7:1」の有名な法則があると言っていたんですよ。10人いたら2人は自分のことを好きだと言ってくれる人がいて、7人はなんとも思っていなくて、1人は嫌いもしくは苦手と感じる人がいるっていう話なんですけど。必ず1人は自分に否定的な人がいるって知ってるかどうかで、傷つきやすさも変わってくると思うんですよ。私たちは「みんなと仲良くしましょう」「友だちはたくさんいたほうがいい」って自然と刷り込まれていた。でも、ハ・ワンさんの本って、そういう無意識のうちに囚われてた先入観を「本当にそう?」って投げかけてくれる。しかも、自分の言葉として淡々と述べているのが、いいですよね。飾ってもいないし、本当に心からそう思った言葉で綴ってくれる。だから、読んでいるこちらにもスッと入ってくるのだと思います。

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