学園漫画『SKET DANCE』はなぜ読み継がれる? ラストエピソードの衝撃展開から考察

『SKET DANCE』ラストエピソードを考察

 友貴は性同一性障害だった。ボッスンは準備時間で胸にシールを貼るアイディアを聞いた友貴が来るのをためらった点から、その事実を突き止めていたのだ。友貴はその個性ゆえに周りからいじめにあい、声で性別を悟られないように口を閉ざしてしまう。しかし友貴の心境はボッスン達の文化祭の発表で、大きく変わっていった。3年C組のメンバーが個性的で面白かったと感じた友貴は、「このままの開盟に入りたい」と発言。それを受け一丸は、学園改革案の見直しを宣言するのだった。

 最終巻以前の雰囲気とは打って変わって、「新理事長の横暴な学園改革」など緊迫感のある展開となった「ラストダンス」編。その効果も相まってストーリーには最終エピソードらしい特別感があり、何よりも面白いストーリーに仕上がっていた。

 しかしこの「ラストダンス」が終了した後、物語には衝撃の展開が待っている。ボッスンの盟友であり、声を発したことのないスイッチが自らの口で言葉を話したのだ。

 連載当初から、パソコンの合成音声ソフトを使って話していたスイッチ。初めは漫画の登場人物らしいキャラ付けのようにも思えたが、ストーリーが進み、その暗い過去と話さなくなった理由が明らかになった。その内容は読者に衝撃を与え、最終回が近付くにつれいつしか読者の1番の関心は、“スイッチは自らの口で言葉を発するのか”になる。

 そして迎えた最終巻。全9話の中から6話を使用したエピソードの主軸は、“喋らなくなった少年を救い、いかに喋らせるか”だった。

 友貴の存在を知り、スイッチも情報を聞き出すために行動する。メールで「今日は何してた?」と友貴に聞くと、「ずっとネット見てた」と返信が来る。その返信を見ながら、自身の引きこもり時代を思い出したように空を見るスイッチ。また特異体質を克服しキリと話すウサミを見て、物憂げな表情を浮かべる姿も描かれていた。このように友貴と対峙する中で、スイッチが何かを感じている描写も、随所に散りばめられている。

 漫画作品の最後を飾る長編エピソードであれば、そのエピソード単体の面白さのみで勝負したとしてもおかしくない。しかし本作では最終エピソードが面白いのはもちろん、それを全て、読者がずっと気になっていたスイッチの成長を見せる助走として活用してみせた。

 ギャグ×ストーリーを軸として、ときにはヘビーな内容も織り交ぜながら深みのある物語を描いた『SKET DANCE』。本作のラストからは作者の「『ラストダンス』で最高潮にストーリーを盛り上げ、スイッチに最高の場面で喋らせたい」という意図を感じてならない。最終局面に来ての長編エピソードを、伏線とも呼べる形で展開した作者の想い。その心意気こそが、『SKET DANCE』が今も人気作品として読まれ続ける理由なのかもしれない。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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