BTSはなぜ人の心を本質的に揺さぶるのかーー『BTSとARMY』著者イ・ジヘンに訊く【前編】

BTSはなぜ人の心を本質的に揺さぶるのか

BTSの魅力を一言で表現するなら「Integrity」

ーー年齢、性別、国の違いによらず、ARMYが強く連帯できる理由は何だとお考えですか?

 この質問はたびたび訊かれ、私も数年に渡って考え続けていることですが、つまりこの質問は「なぜBTSがこれほど多くの人の心を本質的に揺さぶるのか」に尽きると思います。それに対するひとつの答えが、「Integrity(インテグリティ)」です。インテグリティにはいろんなニュアンスがありますが、誠実さ、高潔さ、損なわれることのない価値、統括的、言行一致、そういった意味を持つ単語です。

 最初期のBTSは成功しているグループとは言えませんでした。2013年にデビューして、1枚目のアルバムはそんなにヒットしていません。挫折も味わったし、理不尽に攻撃されることも多かった。そういった試練や壁にぶつかると、それを乗り越えるために人は“冷笑的”になることが多いんですね。そして人を信じなくなります。でもBTSはそういった試練を経ても、自分たちの本質を曲げずに成功した。彼らがインテグリティを保ちながら成功したことを目撃したファンたちは、あるアーティストの成功物語に熱狂したというよりも、人生に対峙するひとりの人間の真摯さに胸を打たれたんだと思います。失敗や批判、他者からの攻撃やトラブルなど、あらゆる障壁を乗り越え、さらに本質を変えずに成功することは可能なんだということを、BTSは見せてくれた。

ーーBTSがなぜ10代、20代だけでなく、それ以上の世代にも愛されるのか、わかった気がします。

 10代、20代のファンはBTSが見せてくれる彼らの歩みが人生における可能性のお手本になるでしょうし、30代以上のファンは、今言ったような観点で見ている人も多いと思います。なぜなら、人生とは花道だけを行くことはできないということを知っているから。そして人生では、実は何が起きるかよりも、それに対峙する自分自身がもっとも重要だということも知っています。そんなふうに、人生に特別な期待を抱かなくなった我々ですら、自身の運命と人生に対峙するBTSの真摯な態度には感銘を受けますし、尊敬もしています。

ARMYはARMYになる前から“この世界に存在する”一人の人間

ーーそのせいか、ARMYは社会奉仕活動にも熱心なように思います。

 それはBTSがARMYにとって信頼の対象になっているからだと考えます。たとえば教会で、もしくは学校で寄付を募っているから、もしくは家族が寄付するから自分もそうするというように、社会奉仕というものは自分が信じる対象がやっているから自分もやろうと思うし、そうやって伝播していくものですよね。ファンダムの中で寄付が広がる理由は、ファンダムに信頼、連帯感があるから。それこそ教会に寄付をするのと同じで、そこに危機感や不信感はありません。

 もうひとつは、今やBTSがメインストリームではない人々、言語的・文化的マイノリティを象徴するようになっている、ということがあります。BTSはもともと韓国では主流とは言えない小さな事務所からデビューしています。メインストリームから外れた人間が世界に打って出たことで、多くの人に希望を与える存在になり、そういった少数の人たちに「自分たちでも成功できる」ということを見せてくれた。それは、彼らにとっては世界が180度変わったようなものです。そういったいい影響をBTSから受けたファンダムは、自分たちもBTSからもらったものを少しずつ周囲に広げていけば、少しは世界がよくなっていくのではないかと考えた。そのためにできる第一歩が、少額でもいいから寄付をすることだと考えて、自主的に寄付活動を始めたのではないかと思います。

ーーARMYが他のファンダムと比べて連帯感が強い理由は、BTSに対する信頼の強さにあるということでしょうか。

 ARMYという集団は急にどこかから現れたわけではなく、BTSがいたから誕生したファンダムだし、BTSが提示する価値観に共感して集まったコミュニティです。つまりその連帯感は、BTSへの信頼度に正比例すると考えられます。なので、ARMYは連帯感を持って奉仕活動をしたり、社会的に影響が与えられるのだと思います。

ーーBTSを語る上でARMYは外せない存在ですが、先生はこのBTSとARMYの関係性についてはどうお考えですか?

 ARMYはARMYになる前からこの世界に存在する人間です。それぞれの経験と社会的背景、人種的背景を持った人たちです。そういった多様なバックグラウンドを持つ人々がなぜBTSに惹かれて集まったのかについてこそ論議すべきだと思います。あえて言うなら、特に文化的にも距離的にも遠い場所でBTSのファンになった人たちは、文化的に寛容な人たちだと思います。自分と異なるものを受け入れ、認めて、そこに美を見出せる、文化的な視覚が開かれた人であり、そういった寛容さを兼ね備えていると思います。それは感情的な知能の高さゆえだと私は考えています。感情的な知能、つまりEQの高い人というのはいいものを素早くキャッチして、それを把握して、その影響を自分のものにすることができる。そして先ほどもお話ししたように、世界の変化の可能性を信じる人たち、こういった人たちがARMYを形作っているのではないかと考えます。

<インタビューは後半へ続く

書籍情報

『BTSとARMY わたしたちは連帯する』
著者:イ・ジヘン
翻訳:桑畑優香
出版社:イースト・プレス
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