NEWS 加藤シゲアキの作家としての強さとは? 『オルタネート』担当編集者が語る才能と魅力

加藤シゲアキの作家としての強さとは?

「小説の楽しさを広く伝えたい、書店さんに還元したい」という想い

ーー直木賞をはじめ、いくつかの文学賞で候補に挙がったことについて、どのようにお考えですか?

村上:とくに直木賞に関しては、全く予想していませんでした。賞は狙って取れるものでもないですし。ただ、この『オルタネート』という作品が、加藤さんが今後作家としてのキャリアを積んでいく上で、何かしら新たな手応えを感じられる作品にしなければならない。もっと言えば、作品がファンの方々に届くのも当然嬉しいけれど、さらにそれ以外のより多くの人に届く作品にしなければならない、という想いは当初から抱いていました。

 具体的には、加藤さんの作品はいままで読んだことがない、「小説ファン」に面白いと思ってもらえる作品にしようと。そのための間口として、書店員さんに認知してもらえるようにしたい。また同時に、普段は本を読まない方々にも届けたいとも考えました。矛盾するようですが、人気アイドルの加藤さんだからこそ新たな読者層を開拓できるとも思ったんです。加藤さんとしても、「本や小説が好きだからこそ自分をきっかけにして小説の楽しさを多くの人に知ってほしい」との想いがありました。ですから、端から文学賞は意識していませんでした。ただ、加藤さんがわざわざ新潮社という老舗の文芸出版社から本を出すのですから、何よりも「小説として面白い作品」をつくることを優先しなくてはならない、とも思っていました。そのような意識でクオリティを高めていったからこそ、結果的に直木賞の候補にもしていただけたんだなと報われた気持ちがしました。加藤さんも「本当にびっくりした」と仰っていましたね。

 本屋大賞にノミネートされたことは、加藤さんとしてもとても嬉しい結果であったと思います。そこを目指すということで書いていたワケではなかったのですが、加藤さんは書店さんに還元したいという想いが強く、「書店さんに喜んでもらえる取り組みをしたい」と常々仰っています。そのなかで『オルタネート』の本が完成する前から「多くの人に書店に足を運んでもらうためにはどうしたらいいか」という話をしていて、ブレストを重ねるなかで、作品中に出て来る料理のレシピカードを初回限定特典として一部の全国チェーンで配布することにしました。結果的に、多くの書店さんが応援してくれましたし、そのような評価をされたことは大きな励みになったのではないでしょうか。

ーープロモーションビデオや表紙のビジュアルについてお聞かせください。

村上:2020年の夏頃、特典のレシピカードを作ろうという話をしていたときに、加藤さんが「プロモーションビデオ(PV)はどうか」と提案してくださいました。本格的な映像を作ればそれ自体が話題になり、本を手にとって貰うきっかけにもなるからと、PERIMETRON所属の映像作家であるOSRIN監督を紹介してくださったんです。このとき、再校ゲラの改稿時期と丸被りでした。加藤さんはそれ以外にもドラマなど他の仕事があり多忙でしたし、そんな状況のなかPVの撮影現場でゲラの受け渡しをしたり、その場でPCで原稿を直していただいたり。とにかくギリギリでした(笑)。

 表紙に関しては、イラスト案と写真案をまずは加藤さんにプレゼン。最終的に久野遥子さんによるキャラクターのイラストで行くことになりました。具象的なキャラクターを配することで「加藤シゲアキ」という名前のインパクトと喧嘩しないか、多少の迷いもありました。でも、これまでと違う本にする、若い人や普段本を読まない人にも手にとってもらうという信念で進めました。それがすごく良くて……ステキな外側が先にできてくると、「根拠はないけど、この本は何だかイケるんじゃないか」みたいな自信を得られるんです。

ーーこれからの加藤さんの作家像について、どのように考えていますか?

村上:「書き続けることが日常になっている」と加藤さんも仰ってますし、いろいろな出版社や編集者との付き合いのなかで、いろいろな作品を書いていくでしょう。そのなかで、『オルタネート』によって状況が変わったという手応えを感じてもらえたたのであれば編集者として本望です。

 文学賞の候補に挙がったり、実際に賞を取ったりすることで作家として成長する面は大いにあると思います。たとえば作品に対する感想は、これまではファンの方々による肯定的な意見が多かったのではないかと思います。「アイドル、俳優としての加藤シゲアキ像」を知っている人たちが読んだ感想だったわけです。でもこうして候補に挙がれば選考委員による選評もますし、話題になることで今までとは違う読者から感想をいただけます。加藤さん自身、それがすごく励みになったと仰っています。今回、候補になったことは1つの到達点でもあると思いますし、加藤さんの中でクオリティの基準点も上がったと思います。今後も、『オルタネート』という作品にとらわれずに、いろいろな幅のある作品を書いていってほしいと思います。

■書籍情報
『オルタネート』
著者:加藤シゲアキ
出版社:新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/alternate/

加藤シゲアキ

1987年生まれ。大阪府出身。青山学院大学法学部卒。NEWSのメンバーとして活動しながら、2012年1月に『ピンクとグレー』で作家デビュー。以降『閃光スクランブル』、『Burn.-バーン-』、『傘をもたない蟻たちは』『チュベローズで待ってる(AGE22・AGE32)』 とヒット作を生み出し続け、昨年3月には初のエッセイ集『出来ることならスティードで』を刊行。アイドルと作家の両立が話題を呼んでいる。

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