ディアボロ、エンリコ・プッチ、ファニー・ヴァレンタイン大統領……『ジョジョ』最もドス黒いボスキャラは?

『ジョジョ』最もドス黒いボスキャラは?

ファニー・ヴァレンタイン大統領(第7部『スティール・ボール・ラン』)

 2020年1月から3月にかけて長崎県美術館で開催された『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』。そのメインビジュアルで大きく描かれたのが、ファニー・ヴァレンタイン大統領だ。

 第4部の広瀬康一や小林玉美など、物語が進むにつれてゆっくりとデフォルメされていったキャラクターはいたが、初登場からラストバトルまでの過程で徐々に大きく、美形になっていった人物は『ジョジョ』シリーズにおいても稀である。

 北アメリカ大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」(以降は「SBR」)は表向きはスポーツ、しかしその実態はヴァレンタインが聖人の遺体を集めるために行われている陰謀だった。

 スタンドは「D4C(Dirty Deeds Done Dirt Cheap)」。直訳で「いともたやすく行われるえげつない行為」。物と物の間に挟まると、無数の多次元に行くことが出来る能力。どれだけ負傷しても無数にある隣の世界の自分と入れ替わることができる。さらに、9つの遺体がルーシー・スティールの体に揃い「D4C-ラブトレイン-」が発現。幸運なものだけを残し、不幸なものをこの場所以外の地球のどこかへ吹き飛ばす、つまり害悪なエネルギーは遠くの誰かが引き受けるというプッチの邪悪さにも似た能力である。

 ヴァレンタインの特徴的なのは、この世のルールはナプキンを取れる者が決めているという考え方。円卓上で誰かが最初に右のナプキンを取ったら全員が「右」を取らざるを得ない。「力」「栄光」「幸福」「文明」「法律」「金」「食糧」「民衆の心」。ヴァレンタインがその遺体というナプキンを手にすることとなる。

『STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン』(24巻)

 その根源にあるのは、元軍人としての愛国心。「我が心と行動に一点の曇りなし…………! 全てが『正義』だ」というセリフは、ヴァレンタインを代表する最も有名なセリフであるが、その後、彼はジョニィ・ジョースターに隠し持っていた銃で発砲。撃ち合いの末に、ジョニィのスタンド「タスクACT4」の無限の回転エネルギーで生き埋めにされ続けることとなる。第4部の岸辺露伴の「だが断る」を筆頭に、そのセリフの前後の物語やキャラクターを知ることでさらに深みが増したり、意味が変わってくるセリフは『ジョジョ』シリーズにおいて多くある。

 第7部のラスボスはヴァレンタインに間違いはないが、ストーリーのラストを飾る悪役はヴァレンタインが別次元から連れてきたディエゴ・ブランドー。そのスタンドは『THE・WORLD』と、第3部のDIOと酷似している。さらに、遺体はマンハッタントリニティ教会地下に造った地下シェルターに納骨格納されるが、後にある人物によって持ち出されることとなる。その悲しくも数奇な運命の物語は第8部『ジョジョリオン』へと続いていく。

 以下、ネタバレあり。

透龍(第8部『ジョジョリオン』)

 20巻(最新は25巻)で初登場。広瀬康穂が高校生の時に付き合っていた元カレの医学生としてモブキャラ的に現れるが、その実体は岩人間。TG大学病院院長の明負悟の正体であり、明負悟の姿がスタンド「ワンダー・オブ・U」でもある。

 長らくラスボスが不在だった『ジョジョリオン』に突如現れた透龍。今だ謎が多く、DIOや吉良吉影のような一目で分かる圧倒的邪悪さは感じられないのが、ファンの間でも黒幕(だろう)と断言できていない要素ではあるが、その佇まいとスタンド能力は『ジョジョ』シリーズにおける新たなラスボスの形と言ってもいい。

 スタンド能力は「追跡・追撃する者は『厄災』の力に見舞われる。追えば追うほど最後に出逢うのは破壊と死である」というもの。「禍い」が激突してくるパターンは車が激突してきたり、降ってきた雨が弾丸のように身体を貫通したりと様々。追わずに追わせる、厄災の流れの中で近づき攻撃するといった『ジョジョ』シリーズにおいても極めて難解なストーリーが展開されている。コミックス未収録の最新話では、東方定助のスタンド「ソフト&ウェット」のしゃぼん玉が厄災の条理も越えて行ける「爆発的な回転」を生んで、透龍に届くかーーといったところ。「ワンダー・オブ・U」(透龍)による岩昆虫を使ったスタンド攻撃もあるが、歴代のラスボスにも見られたスタンドのさらなる形態進化も期待せずにはいられない。

「コロナで、感染拡大は止めたいけれど、お出掛けとか経済は止めたくないとか、この世はルールの矛盾というか『ジレンマ』だらけだ。(中略)理論だけで『ジレンマ』は解決出来なくて『ジレンマ』に接近出来るのは、フィクションの世界だけかもしれない。この25巻はその『ジレンマ』を描く」(『ジョジョリオン』25巻 作者コメントより)

 第5部では「運命」、第6部では「重力」、第7部では「納得」といった各部を象徴するキーワードが存在していたが、ここで新たに登場する「ジレンマ」という言葉。コロナ禍の先で、もうすぐ『ジョジョリオン』は誰もが予想し得ない結末を迎えようとしている。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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