ISHIYA × TOSHI-LOWが語る、ハードコアパンクのつながり 「本当はみんな、自分の心の中にある大事なものでつながりたい」

ISHIYA × TOSHI-LOW ハードコア対談

LIP CREAMに全てを教えてもらった

TOSHI-LOW:当時のツアーの話も面白いね。野宿したりとかさ(笑)。

ISHIYA:LIP CREAMのツアーはちゃんとしていて、次の会場まで行ける交通費とかをちゃんと確保していくんだけれど、俺たちDEATH SIDEと鉄アレイで始めた『BURNING SPIRITS』で、鉄アレイがいなくて他のバンドと回ってたときは、お金のことは何も考えていなくて、とにかくライブができる場所があるというだけで回っていたんだよね。Tシャツぐらいしかグッズがなくて、ライブをやるだけやって「金がないぞ、どうするべ?」みたいな感じだった。それでも最初は泊めてくれるところがあったんだけれど、行く先々で飲んでは揉めてを繰り返していたから、次の年になったらどこも泊めてくれるところがなくなっちゃって(笑)。水があってトイレがあるところならどこでも良いってことで、公園とかに泊まるようになるんだけれど、それにも慣れちゃって。「今日の寝床はこの公園です」「なかなか良い公園じゃないか」みたいな感じになっちゃう(笑)。

TOSHI-LOW:そういうツアーを続けていくうちに、全国に繋がりができていったんだよね。でも、俺が不思議だったのは、あんなに凶暴な人たちがどうやって仲良くなったのかということ。俺らがハードコアの人たちと仲良くなったのはずっと後のことだったし、90年代後半にはもう他ジャンルのバンドと一緒にライブをすることを了承してもらっていたから、揉めたりはしていないんだけれど、ISHIYA君のときはそうではなかったでしょう? その関係性がどうやってできたのかが、この本を読んでようやく理解できた。

ISHIYA:俺らは散々、暴力的なこととかを目の当たりにしてきたから、「俺らの世代ではそういうのはちょっとやめよう」という感覚はあったのかもね。で、たまたま集まっていったのが、同じような感覚の人間だったとわかって、仲良くなっていったんだと思う。無理に合わせたりしているわけではなくて、普通に好きなことを好きなようにやって、気の合う奴らでやっていけば良いじゃないと思っていた。もちろん、上の世代のライブの恐怖感とか緊張感も、それはそれでめちゃくちゃ面白かったけれど、楽しいバンドが好きだったんだよね。

TOSHI-LOW:楽しいバンドが好きというのはわかるな。俺が今、ライブを楽しんでやれているのには、実はISHIYA君の影響があって。俺はそれまで、ライブ中は絶対に笑っちゃいけない、自分を強く見せなければいけないって思っていたところがあったんだけれど、ISHIYA君がFORWARDで歌っているのを見て衝撃を受けたんだよね。ISHIYA君、ライブ中に笑っているの。ヘラヘラしながらやっているとかじゃなくて、ただライブが楽しくて笑っている。それを観て、変に強がってる自分のボーカリングが嘘くさく思えちゃって。ISHIYA君のライブは力強くて、バンドが楽しくて仕方ない感じ。「バンドなんて、楽しくて当たり前なんだよ」みたいな感じで、怖くて暴力的なハードコアとは違った魅力がでていたと思う。

ISHIYA:でも、俺らの前の世代のMASAMIさんやTRASHも笑ってたよ。MASAMIさんはニヤニヤしながらライブをやっている時もあった。そのニヤニヤが怖いんだけどね(笑)。ライブハウスは怖いところではあったけれど、仲良くなると本当に優しい人たちだったから、そういう経験が俺の根底にはあるんだと思う。あとはやっぱり、LIP CREAMの影響はかなりでかいね。

TOSHI-LOW:俺は再結成したLIP CREAMしか観たことないけど、一緒にツアーを回った時はどんな感じだったの?

ISHIYA:メンバー4人とも、仲は良いんだよ。でも、4人が4人ともまったく別の個性なんだよね。言っていることが全員バラバラだから、正直なところ「この人たちはいったい何を言ってるんだろう?」と思うところもあった。でも、ライブを一発見ると、そこがこのバンドの良いところなんだってわかる。みんなそれぞれの方向に突き進んでいくんだけれど、それがマグマみたいな爆発的なパワーになって、めちゃくちゃ素晴らしい。あのバンドと一緒にツアーを回っていなかったら、今の俺は絶対こうなっていなかったと思う。

TOSHI-LOW:ツアーを回るなかで、LIP CREAMならではのルールみたいなものはあったの?

ISHIYA:その日にやったライブを、次のライブで必ず越えていくという意識はすごかった。でも、飲み屋でそういう話になるとメンバーが揉めて喧嘩になるんだよ(笑)。で、たまに先に寝ちゃってたりするんだけど、翌日になったらみんなの顔がボコボコになっていて、どうしたんですか?って聞いても「何も覚えてない」とか言うんだよ。そんなの忘れるわけないじゃない(笑)。ところが不思議なことに、そういう揉め事があった後のライブはとんでもなくかっこいいんだ。あんなバンド、ほかに見たことがないよ。

TOSHI-LOW:そういうのってきっと、奇跡的なバンドでしかできないことだよね。

ISHIYA:全員バラバラで、しかも一人一人がすごく太い。俺は何もかも全部、あの人たちに教えてもらったね。たぶん、あの人たちは教えているつもりはなかったと思うけれど、俺は勝手に感じ取っていた。

生きることに精一杯だった

TOSHI-LOW:この本を読むと、今までむっちゃ怖い人だなぁと思っていたレジェンドたちの人間性も見えてくるじゃん。なんで見えてくるのかというと、当時のISHIYA少年の視点から、だんだんと成長して色々と理解していく過程も描かれているからなんだよね。大人になるに連れて、悪かったことにも反省すべきところにも気づきだす。そこにグッとくるんだよ。30年という時を経て、「なんでも好き勝手にやろう」じゃなくて、自分の好きな人や音楽と社会とを見比べながら、その中でも本当に大事なものを探っていくようになる。その生き方がハードコアで、一人の人生史にもなっている。だから面白いんだよね。

ISHIYA:だって反省しなかったら、ただのわがままで身勝手な人間の話になっちゃうでしょう。誰も認めず、俺だけが正しくてお前が間違っている、みたいな。そんなの人に読んでもらうようなものじゃないからね。

TOSHI-LOW:そういえば、俺は朝、自分の家の近くのコーヒー屋に行くんだけれど、そのコーヒー屋の常連仲間にブラジル音楽をかけるDJがいて、彼もこの本を買ったらしいんだよね。なんで買ったかというと、中学時代に日比谷の野音でISHIYAにぶん殴られたことがあるって(笑)。

ISHIYA:覚えてねーけど……やってるかも(笑)。あの頃は日比谷の野音でいっぱいイベントがあったから。

TOSHI-LOW:その人、「俺はISHIYAに殴られたことに腹が立ってたけれど、この本を読んで気持ちが変わった」って言っていて。どう変わったの?って聞いたら、「ISHIYAもライブハウスが怖かったんだって知って、なんか大好きになった」だってさ。

ISHIYA:そうかあ……あの時はごめんって、謝っておいて(笑)。

TOSHI-LOW:(笑)。でも、ISHIYA君たちの間でも「これはやらない」みたいなルールはあったんじゃない。たとえば、どんなに金がなくても友達からは取らないとか。

ISHIYA:友達からは絶対取らなかったね。中には仲間内から取るような奴もいたけれど、そういう奴はいなくなっていく。

TOSHI-LOW:人付き合いの中で大事にしていたことは?

ISHIYA:考えている余裕がなかった。生きることに精一杯だったから。飯をどうするかとか、タバコをどうするかとか、その日の寝床をどうするかとか、そういうことを考えているだけで、たまたま同じような奴らと一緒にいて。でも、大事に思っていることとか感覚は共有していたと思う。で、こいつのこういうところが良くないとか、俺のこういうところがダメだとか、お互いに勉強しながら一緒に成長していった感じかな。

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