島本理生×大塚 愛が語る、恋愛と創作 「恋愛の失敗もいつかネタになるし、昇華できる」

島本理生×大塚 愛が語る、“大人の恋愛”

大塚「最初は、聞こえてきた言葉をただ拾うだけ」

大塚 愛

島本:ふだん、歌詞はどんなふうに書かれているんですか。

大塚:これも本当に申し訳ないんですが、いつも思いつきで……。最初は、聞こえてきた言葉をただ拾うだけなんです。で、その言葉を邪魔しない音を選んで組み立てていく。その過程で、最初の言葉から連想されるものや、メロディが呼び寄せる情景をさらに拾い集めて、歌詞に落とし込んでいく、っていう。

島本:ああ、発端も「聞こえてきたもの」。音なんですね。そして、意図して何かを繋げていくのではなく、インスピレーションで制作していく。おもしろいです。偶発性でつくられていくんですね。

大塚:はじまりも仕上がりも全部、偶然以外の何物でもないです(笑)。島本さんはどんなふうに小説を書きはじめるんですか。

島本:私も、始まりはふっと湧くことが多いですね。映画が好きなので、小説も場面で考えるのが好きで。この小説は夏の海、この小説は雪が降っている函館の坂道、とか、どこから物語を始めるかをまず考えるかもしれません。

――『2020年の恋人たち』は、どういう場面が最初に浮かんだんですか。

島本:やっぱり冒頭の、激しい雨と落雷のなか、東京タワーが見えるホテルのバーにいる、という情景から。思いついたのは、六年前に私が芥川賞に落選した夜。私、本当にそういうホテルのバーで待ち会をしていたんですよ。

大塚:へえ!

島本:豪雨のなか、雷が鳴って、東京タワーも光っていて。やけに不穏だなと思っていたら、芥川賞が大変な騒ぎとなった。「なんて日だ!」というそのときの衝撃が、発端なんです。小説は、母親が待ち合わせ場所にくる途中で事故死してしまうところから始まるんですけれど、自分も渦中にはいるんだけれど、思いもよらぬ出来事は自分ではない身近な人に起きて、そこから何かが変わり始める、という。

大塚:どれくらいかけて書いたんですか。

島本:一年半くらいかけて連載していました。ゲラになってからもけっこう、直してますけれど。

大塚:一年半……!

――大塚さんは、小説を5時間くらいで書きあげたんですよね。

大塚:私、サビをつくるのにも15分くらいで。

島本:はやっ!(笑)

大塚:練っては直し、をくりかえして時間をかけてつくられるアーティストさんも、もちろんいらっしゃるんですけど、私は体力がもたない……というか、長時間、考えることができないんです。

島本:それで、あのクオリティ。

大塚:曲をアレンジするときは、何度もくりかえし聴いて修正するんですよ。いつになったら飽きるのか、どの季節、日時だったらこの歌詞はグッとくるのか、4分程度の曲を一日中聴き続けて、細かい調整をくわえながら、仕上げていく。粗さがしにちかい作業ですよね。でもだから、完成しちゃうともう聞かない。聴きたくない。小説も、読み返してません(笑)。

島本:ああ、でも粗さがししちゃう気持ちはわかります。ゲラを見るときはいつも、細かいところが気になって、直しすぎて、何が正しいかわからなくなってしまうし、自分の言葉を出し入れしすぎて、手を離れた瞬間、もう見たくない!って思っちゃう。

大塚:私も小説はゲラ直ししているときがいちばん、つらかった。もう全部編集さんに任せる!って言いたいところだけど、こだわりたいところはやっぱり、あるわけで。でも長編……これだけ長い小説を書くとなると、その労力も何十倍ってことですよね。

島本:でも、短編は短編で限られた枚数で起承転結をつけなきゃいけない難しさがありますしね。長編だと、私はゆっくり好きに書いてしまうので、だいたい物語が盛り上がりを見せるのが100ページくらいなんですよ。今回の大塚さんの短編は、冒頭から不穏さが漂っていて、引きも強いのに、最後のオチまでじっくり仕掛けていく……書く上で構成って意識されましたか?

大塚:全体で何文字にするかが最初にだいたい決まっていたので、その数字とにらめっこしながら「ここではまだいっちゃいけないな」と思って書いてました(笑)。「もうそろそろいっていいかな」と思って書いてみたら、文字数が足りなくて場面を増やさなきゃいけなくなったり。すぐ、おもしろいところを書きたくなっちゃうんですよね。長くは引っぱれない。だから長編は書けないと思います(笑)。

島本:なんとなく、そのつくりかたも音楽的ですよね。Aメロがあって、サビはこのへんで、リフレインも入れて……みたいな。文字数で山場の場所を決めるっていうのは、私もならってみようと思いました。

大塚:音楽もですけど、映画の影響も大きいと思います。頭のなかに流れている映画を、全編文字起こしした、みたいな感覚なので。

島本:それをアウトプットはできるのに、読み返すのはつらい、というのはすごく不思議な感覚に聞こえます(笑)。楽譜を読むときは大丈夫なんですか?

大塚:楽譜、読めないんですよ。

島本:ええっ! じゃあ、本当に浮かんだメロディをそのまま組み立てていく。

大塚:ですね。歌って、落として、ピアノで拾ってアレンジしていく。

島本:すごい。巫女さんみたい。

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