『2016年の週刊文春』著者・柳澤健が語る、文春ジャーナリズム の真髄「権力に立ち向う数少ないメディア」

『2016年の週刊文春』著者インタビュー

スクープを連発

――そのバトンを見えない形で受け継いだのが、本書のもうひとりの主役である新谷学さんです。

柳澤:新谷くんは、僕の4年下で入ってきて、Number編集部でも一緒だった。ちょっと強面だけど、一方では凄いオシャレ小僧で、出版界でも一番じゃないですか。新谷くんがファッショングラビアで撮られてるのを観たこともある。ツイードのスーツを着こなして、もう一分の隙もないわけ(笑)。

 今回は、花田さんと新谷くんというふたりを主軸にしようという構想ではあるんだけど、僕は花田週刊を実際に体験してるから、そこにハンデはあるんだよね。どうしても花田さんのエピソードが多くなっちゃうから。新谷くんも「花田さんはカッコいいエピソードがたくさんでてくるけど、僕は酔っ払って怪我するとかそんなのばっかり」と僕にこぼしてましたけど(笑)。かっこいいエピソードもあるんですけどね。

――その新谷さんが2015年の秋に春画のグラビアを掲載したことを理由に、3か月の休養を言い渡されます。そして、2016年正月に復帰後、週刊文春はスクープを連発し、文春砲を確立するというのが『2016年の週刊文春』の章になります。

柳澤:いろんなタイミングが重なって、あの快進撃が起きたんだと思う。新谷くんも休養でリフレッシュして、気持ちを新たにしたこともよかたし、新谷くんの下にいた編集部員たちも、理不尽な処分を受けた親分のために、なんとかスクープをモノにしてやろうと爪を研いでいたんじゃないかな。すごいスクープの連続でしたよね。

――「ベッキーのゲス不倫」に始まって、「甘利大臣の賄賂疑惑」「清原覚醒剤疑惑」「宮崎謙介育休不倫」「元少年Aへの直撃取材」「ショーンKの嘘人生」……と毎週のようにスクープが飛び出し、その結果、ベッキーが謹慎、甘利大臣が辞任、ショーンKが降板など、世の中を動かしました。

柳澤:ベッキーの不倫は、別にどうってことない話(笑)。でも、彼女が『週刊文春』が出る前に記者会見して記事内容を完全否定し、その際に嘘をついた。だから『週刊文春』はLINEでのやりとりまで出さざるを得なくなって、結果、ネットで炎上した。ベッキーが比較的小さい事務所にいたこともあって、他のメディアも次々に後追い記事を出したから大騒ぎになった。文春がちゃんとしてるのは、後に「ベッキーからの手紙」を載せてるし、そもそも彼女のことを叩いてない。

――事実を晒しているだけであって、良いとも悪いとも言ってないんですよね。

 柳澤:『週刊文春』をゴシップ誌と言う人もいるけど、そういう面がゼロとは言わない。ただ読者がそういう記事を求めていることは確かだし、権力に立ち向かっている数少ないメディアであることは間違いない。実はいま僕がやっている仕事も、すごく文春的というか、手法が近い。某レスラーにどう思われても、ファクトを積み上げて完全否定する。スケールは全然違うけど(笑)、結局は僕も文春ジャーナリズムをやってるんだな、と最近思うようになりました。

――この本は『週刊文春』を文春的手法でルポしたという画期的な構造になってますね。

柳澤:個人的に親しい人もたくさん登場するけど、ちゃんとフェアに書いたつもりです。花田さんも、新谷くんも、そこは評価してくれてます。文春社内の評判もいいですよ。ただ、文句のある人は私には言ってこないから(笑)。

――いま日本のメディアはスクープに関していえば『週刊文春』が独走というか、孤高の存在になっています。

柳澤:『週刊ポスト』や『週刊現代』は、もはやスクープ戦争からは降りてしまって、「死ぬまでセックス」とか「食べてはいけない」とか、そんな特集ばかりやる定年後の団塊世代向けのクラスマガジンになり果てている。文春がそうなっていないことはOBとしてうれしいですよね。いまは雑誌が売れない、広告が入らない大変な時代。コンテンツメーカーよりもプラットフォーマーが圧倒的に強い時代に、100年の歴史を持つ出版社がどう対応していくか。スクープという武器を使って、デジタルで勝負していくしかない。その最大の推進者が新谷学です。いま、文春に新谷くんみたいな豪腕のリーダーがいるのは非常にラッキーなことだと思います。

――危機感はあるけど、次世代のビジョンも見えているんですね。

柳澤:編集者はみんな雑誌づくりが大好き。でも、編集者はおもしろいことをやりたいわけで、紙であることは本質的な問題ではない。いまの『週刊文春』編集長の加藤晃彦くんは、「別にめちゃめちゃ稼がなくてもいい。『週刊文春』のちょっといい加減で、でも、おもろいことをみんなでやろうぜ、という環境をなんとか残したい」って言ってましたね。ビジネスはもちろん大事。でも、それ以上に大事なのはおもしろいことをやるということ。文藝春秋はそういう会社なんです。

――本書を読んで、これから文春に入りたい、という人が増えそうです。

柳澤:それは意識してます。この本を読んで、優秀なヤツがひとりでもいいから文春に来てくれることを願ってます。いい給料をもらうんだったら、コミックを出してる出版社のほうがいいかも。でも、たぶん文春のほうが楽しい仕事ができるんじゃないのかな。

■書籍情報
『2016年の週刊文春』
柳澤健 著
定価:本体2,300円+税
出版社:光文社
公式サイト

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