『【推しの子】』が問う、アイドルとファンの関係性の難しさ ジャンルレスな物語を考察

『【推しの子】』ジャンルレスな物語を考察 

 『【推しの子】』が描くのは、推し側のリアルだけではない。ファンや世間に対する痛烈な批判も込められている。

 アイがストーカーに殺された、というセンセーショナルなニュースに対して、「男がいるなら死んでも仕方ない」という内容のSNSへの書き込みを見たルビーは激昂する。

「アイドルが恋愛したら殺されても仕方ないの? ねえ? そんなわけないでしょ!!」

「自分は散々アイドルにガチ恋しておいてさ‼ それを否定するのって虫が良すぎない!?」

 ルビーのように感情を露わにはしないものの、アクアの心にもアイドルとファンに対する嫌悪が刻まれる。母に憧れてアイドルを目指そうとするルビーに、アクアは冷たく釘を刺す。

「なってもしょうがなくない? 儲かりたいなら別の仕事の方が手っ取り早いし、ファンは常に身勝手で、男が出来れば正義面で袋叩き」

 アイ、アクア、スタッフ、ファンの男。様々な人物の目を通して読み進めることで、改めて考えさせられる。私たちが本当の意味で「推し」に求めているものは一体なんなのかということを。絶対にファンを裏切らない厳格な潔癖さ? それとも決して剥がれない美しい嘘?

 そもそも、アイドルに対して使う「嘘」とはなんなのだろう。すぐ隣にいる人の本心すらわからないことだってあるのに、画面の枠内でトリミングされて発信される情報しか知ることのできない私たちにとって、「本当」とは何を指すのだろう。そして、仮に「本当のこと」が存在するとして、それにどれほどの意味があるのだろう。

「ファンの事蔑ろにして 裏ではずっとバカにしてたんだろ! この嘘吐きが!」

 そう言ってナイフを突き立てたファンの男に、アイは血を流しながら答える。

「私にとって嘘は愛。私なりのやり方で愛を伝えてたつもりだよ」

「君達の事を愛せてたかは分からないけど、愛したいと思いながら愛の歌を歌ってたよ。いつかそれが本当になる事を願って」

 かつて「アイ」というアイドルを推していたアクアとルビーは、芸能界に足を踏み入れることで、いずれ自らも誰かの「推し」になっていくだろう。その時、推しとファン、そして嘘と真実の関係について、さらに切実に問い直されることになるのだろう。その答えが出るのかはまだわからない。ただ、「推したい」と思える誰かに出会った時、私たちはたぶん、すでに彼らから愛を受け取っている。その想いだけは嘘ではないと信じてもいいのかもしれない。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129

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