藤谷千明×横川良明が語る、オタクとして楽しく生きる方法 「推し活動だって生涯続けられるのかもしれない」

藤谷千明×横川良明、オタク対談

推しと共に年齢を重ねる、オタクのこれからの生き方

――お二人はそれぞれオタクとしてはジャンルが違うわけですが、その差異は感じますか。

横川:俳優オタクならではかはわからないですが、アイドルや2次元のジャンルに特にハマらなかった人が今、俳優オタクになってるんじゃないかなって感じています。というのも、俳優って “推す”こととの親和性がそこまで高くないんですよね。まず私たちが見えているものは本人ではなくお芝居だし。今でこそ2.5次元舞台が出てお金を使う場所が増えましたけど、それこそ1990年代頃のトップの俳優は舞台もそんなに出るわけじゃなかったし、ドラマと映画を観るくらいで。俳優のためにお金を消費する文化ってそんなになかったと思うんです。

藤谷:私はジャンルには詳しくないので印象論になってしまいますが、ドラマや映画をメインにしている俳優の方を生で観るチャンスはそれこそ舞台挨拶くらいで、昔は今ほどイベントやグッズなど「課金」の選択肢も多くなかったように思います。

横川:そうですね。今みたいにSNSもないから、身近に俳優を感じる機会はほとんどなかった。あくまで「○○さんのファン」であって、オタクという感じではなかったかなと。だからこそ、どこにもハマらなかった人達が、現代の俳優沼に来たときに、こういう楽しみ方もあるんだって盛り上がっているんじゃないかなと思います。僕の周りにいる方々も、アラフォーぐらいの年齢でオタクとして目覚めた人がすごく多いんです。

藤谷:昔は、オタク趣味は子供のもので年をとったら卒業するものという認識だったように思います。「結婚したらライブには行かない」とか、「同人活動は卒業する」とか。周囲の人々もかつてそう言いつつも結婚後も仕事や家庭の都合をつけて、元気にオタクやってたりするわけですが。今、webで『バンギャル専用マンションへの道』という連載をやっているんです。趣味でつながる老人ホームやシェアハウスはできるのかと。本にも書きましたけど、老化スピードは平等じゃないこともあって難しいかもしれない。オタクがオタクとして歳を取っていくために、今後どうしたらいいのかとはよく考えます。そんな中、取材をしていると「氷川きよしさんのコンサートがリハビリのモチベーションになっている方もいる」みたいな話を聞くんですよ。そういう話を聞くと、健康や金銭事情もありますが推し活動だって生涯続けられるのかもしれないという希望は持てるのかなと。

横川:推しと共に年齢を重ねていけることは、これからの僕の楽しみです。僕は林遣都くんの10代と20代しか知らないけど、これから30代、40代の彼が見られるんだって思うとワクワクしますから。そのために考えていることは、「金だけは貯めておこう」ですね。僕よく「散財してる」って言ってますけど、実はちゃんと貯金もしてます(笑)。

藤谷:ああ、それは憧れます。私もルームシェアによって固定費が抑えられたことで、成人女性の平均貯金額には及ばないのですが、ようやくちょっと残高が落ち着きました。精神の安定と経済の安定は直結するので、元気にオタクやるにはそこは欠かせない……。

横川:オタクは消費を美化しがちですが、必ずしも消費だけが美ではない。正気を失いつつも、計画性は大事です。そして僕は今のところ独身のままで生きるつもりですが、60歳、70歳になったときに、結婚せず推し活をしていてもみじめに感じない社会になっていたらいいなと思います。ちょっとずつ良くなっているとは思いますが。

藤谷:それはありますね。実家に住んでいる中年のオタクを「子供部屋おじさん/おばさん」みたいにいったり、いつまでそういう取り上げ方をしてるんだろうと思います。実家から離れてはいますが、私の部屋の構成は寝床、机、CD、雑誌、漫画、で実家時代から変わってないですし!

横川:「別にいいじゃん」っていうふうにならないと。僕は自分の死に方がすごく気になるんです。オタクの方がグッズに囲まれた部屋で孤独死していたみたいなニュースがときどきありますが、もし自分が部屋で孤独死していたら、推しのグッズに囲まれて死ねて幸せだなと思う。孤独死という部分だけを切り取らないでほしいなと、切実に思っていますね。

藤谷:もし自分が一人で生き途絶えて「あの人は人生が満たされてなかったからオタク活動に走っていたんだ」みたいな記事が出たら、私だったら化けて出てしまいそう、いや化けて出ます。勝手に「かわいそう」みたいなジャッジはされたくないですね。

横川:今後僕がもし結婚したとしても、どちらかが先に死んだら遺されたほうは一人になるわけですからね。その時に心の拠りどころはあったほうがいいと思います。また若い誰かを追うかもしれないし、林遣都くんを永遠に追っているかもわからないけど、そうあり続けられたらいいなと思いますね。最後に藤谷さん、僕の本のタイトルで恐縮ですが、「推しとは何か」を本気出して考えてみると、一体なんだと思いますか?

藤谷:難しいですが……人生の指針ですね。私は推しのライブに行くことによって、自分の軸がちょっとそこに戻る。推しの人生も変わっているだろうし、私の人生も変わっているけれど、ライブに行けば、中学生の頃からステージにいる人と受け取る人という関係はずっと変わらないので。自分がどこに行ってもそこにある、灯台のような存在かもしれないですね。

■プロフィール
藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年生まれ。工業高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後職を転々とし、フリーランスのライターに。主に趣味と実益を兼ねたサブカルチャー分野で執筆を行なう。共著に『すべての道はV系へ通ず。』『水玉自伝 アーバンギャルド・クロニクル』など。近刊『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。

横川良明(よこがわ・よしあき)
1983年生まれ。大阪府出身。2011年からフリーライターとして活動開始。2018年、テレビドラマ『おっさんずラブ』に夢中になり、あり余る熱情と愛を言葉に変えて書いた「note」が話題となり、そこからテレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムで引っ張りだこのライターとなる。著書に『男性俳優インタビュー集「役者たちの現在地」』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。

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