栗城史多は本当に山を愛していたのか? 『デス・ゾーン』著者・河野啓が語る“元ニートの登山家”の実像

『デス・ゾーン』河野啓インタビュー

栗城史多の魅力

――魅力という言葉が出てきましたが、河野さんが栗城さんに惹きつけられた理由はなんでしょうか?

河野:まず挑戦そのものが新しいと思いました。登山とテレビというのは相容れないものだと考えていました。自分が行って撮って来られないですし。それが栗城さんは「僕が撮ってきますよ」と映像まで提供してくれて、しかもその映像には「苦しい」とか「畜生」と言いながら、涙を流している。これまでの登山家のイメージとはまったく違いました。非常に可愛いらしいルックスで、応援したくなる、放っておけないキャラクターでした。

――確かに可愛らしい部分はありますよね(笑)。私は地上での栗城さんが凄いと思うのは、何度もスポンサーの出資を受けてエベレストへ挑戦することができたということです。失敗重ねていたのにも関わらず、スポンサーが出資し続けてくれた理由はなんだったと思いますか?

河野:スポンサーが登山に詳しくないというのもあると思いますが、企画書の謳い文句を読むと“いかに自分の挑戦が凄いか”“前代未聞の挑戦なのか”というのが、とても上手に書かれているんですよ。2012年にエベレストに挑戦したときは「このコースを秋に単独で登った人はこれまでにいません。世界初です」ということを書いていたのですが、秋より難しい時期に登った人はいるんですよ。夏の方が雪崩は起きやすいので。そういうアピールの上手さがありましたね。

――「秋の単独登頂は初」は嘘ではないと。

河野:加えて出資してくれた人たちへのお土産やプレゼントなどを、上手に考えるんですよ。「ご家族の写真を持ってエベレストをバックに撮影します」とか、いかにもテレビ的な考えでしたね。テレビの会議で言ったら、「おお!」と歓声が上がりそうな企画をどんどん出してくる。

 ですが、その感覚が登山界からの不評を買います。例えばネパール側から登るコースにはアイスフォール地帯という箇所があり、単独では登れないそうなんです。それを出資者に説明しなかったりしていので、それはルール違反だろうと。栗城さんはバッシングと言っていましたが、そのような正当な批判を浴びるようになっていきました。そこは栗城さんの事務所の人や周りが指摘してあげていれば、少しは回避できたのかもしれないです。

――登山界では全体的にそのような評価だったのでしょうか?

河野:一緒にトレーニングしていた花谷泰広さんは割と栗城さんの味方というか、登山界という世界ではめちゃくちゃな定義で矛盾だらけだけど、指を失った栗城さんが「メディアを使って自分の勇姿を視聴者に伝えよう」という考えは尊いものだという考えでした。そして大蔵喜福さん。栗城さんの実現しなかった中継での登頂解説ゲストに何度も予定されていました。「とにかくあいつがバカだから好きなんだと、最近気づいた」と力説されていました。本当に栗城さんのことが好きだったんだと思います。

――メディアで登山の魅力を広く伝えたりと、実際に評価できる部分はあったということですね。

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