浅野いにお『デデデデ』の突き抜けた面白さ ふたつの「大きなウソ」を組み合わせた手腕に迫る

浅野いにお『デデデデ』の突き抜けた面白さ

 物語は、やがて彼女らの主観を離れて、『侵略者』側や、ある少年の姿をした“異分子”の視点でも描かれるようになり、「人類終了」に向けてのカウントダウンが始まる。そして明かされる、“おんたん”の正体と、並行世界の存在……。

 すごい物語だ。通常、「侵略者(インベーダー)」と「並行世界(パラレルワールド)」をひとつの物語の中で描くのは漫画作りのセオリーとしては御法度だと思うが(業界内の暗黙のルールとして、「ひとつの物語の中でついていい大きなウソはひとつだけ」というのがある)、浅野は見事な手腕でふたつの「大きなウソ」を組み合わせて、独自のSF世界を展開させている。

 さて、いまさらいうまでもなく、2014年に連載が始まった同作で描かれている「空に浮かんだ巨大なUFO」とは、その3年前に起きた東日本大震災と原発事故を暗喩しているのだろう。しかし、おそらく作者にとって、それはあくまでも先に述べたような「得体の知れない恐ろしい何か」の象徴にすぎず、ということはつまり、新型コロナウイルスが蔓延する現在はまた別の読み方も可能だということだ。

 いずれにせよ、現実世界がますますディストピアめいてきたこの時代に、浅野いにおという鬼才が、「人類終了」をテーマにした物語のラストでどのような答えを出すのか、いまから注目している。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(10)』
浅野いにお 著
定価:本体694円+税
出版社:小学館
公式サイト

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