『地獄楽』、アニメ化でブレイクなるか? バトルの中で愛を描いた傑作を読み解く

完結『地獄楽』が描いた“愛する”という強さ

 “画眉丸”という名は里のトップに受け継がれる名前で、“がらんの画眉丸”の後継もシジャという忍びに決まっていた。このシジャが絶対的な画眉丸の信奉者で、何の感情もなく敵を屠り任務をこなす姿に憧れていた。それだけに、妻を得てからの画眉丸を腑抜けとみなし、自分の手で殺そうとして立ちふさがる。里には結という名の女などいない、幻術が特異な長老が見せた幻だと言って画眉丸の心を揺らし、諦めさせようとする。信じたくない。けれども嘘ではないかもしれない言葉に揺れる心が弱さを招き、隙を生む。

 画眉丸が、結との愛を知って腑抜けになったと思い、「本当の貴方の復活を」「身も心も追い詰めればきっと昔の闘争本能が蘇るはず」と訴えるシジャの言葉は、忍びとして冷酷な任務をこなす上では正解だったかもしれない。けれども、今の画眉丸にとって、結への愛情は、たとえ幻術の結果だったとしても、捨てられるものではなかった。もういちど会うまでは生きたいという思いが、画眉丸を奮い立たせて、シジャとの決戦に向かわせる。

 画眉丸の横で剣を振るう、山田浅ェ門佐切という女性の打ち首執行人には、共闘の中で浮かんだ恋情を即否定されるようで辛かったかもしれない。そこで嫉妬ではなく、結と画眉丸の幸福に願いを切り替え、守りたいと思ったことが、死地で彼女を生き延びさせたのかもしれない。まつろわぬ民というだけで死罪を言い渡された少女・ヌルガイを守りたいと、執行人の士遠が、死闘をくぐり抜けていけたことにも通じる。

 だったら、蓮はどうだったのかというところが、クライマックスにかけての大きなポイントだ。美しい女性体となった蓮が、本土へと向かう船上で、画眉丸や佐切、そして打ち首執行人たちの一門では二位の実力を持つ殊現らを迎え撃つ。そんなバトルの中で蓮が見せるのも、それこそ千年の長きに及ぶ深くて強い愛だった。

 画眉丸の結への思いにもひけをとらないその愛と、圧倒的な強さにかなうはずのない主人公チームに勝ち目があるとしたら、いったい何か。それこそがまさに、愛する人がいることであり、信じるものがあることだと、展開が教えてくれる。絶体絶命の画眉丸を救った、彼のある振る舞いがもたらした奇跡に、愛を尊ぶ素晴らしさも学べるはずだ。

 『地獄楽』が連載された「少年ジャンプ+」では、マンガ大賞2019を獲得した 篠原健太の『彼方のアストラ』が連載され、マンガ大賞2021にノミネートされた遠藤達哉『SPY×FAMILY』、松本直也『怪獣8号』が連載中。そうした作品に混じって、人気上位を走り続けた『地獄楽』が面白くないはずがない。加えてアニメ化だ。

 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』や芥見下々『呪術廻戦』が、アニメ化によってキャラクターの声や動きを得て、一段と支持層を広げたような展開が、同様にアニメ化が決まり、第2部が『地獄楽』と入れ替わるようにして「少年ジャンプ+」で始まる藤本タツキ『チェーンソーマン』ともども起こりそうだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

『地獄楽』12巻
『地獄楽』12巻

■書籍情報
『地獄楽』(ジャンプ・コミックス)既刊12巻発売中
著者:賀来ゆうじ
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/jigokuraku.html

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