加藤シゲアキ、作家としての実力示した『オルタネート』がランクイン 文芸書ランキング

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 72歳の内館が新刊で描く主人公、70歳の夏江は夫の寝顔を見ながら「今度生まれたら、この人とは結婚しない」と思う。自分の人生は本当にこれでよかったのか? もっと別の道があったのでは? その疑念と後悔を、たぶん、多くの人が見ないふりしながら生きている。どうしたって人生をやりなおすことはできないのだから。

 「『今度生まれたら』で書きたかったのは「時を外すな」ということです。70代の方が、若い頃の夢を叶えられなかったことを虚しく思うばかりでなく、70代という「時」を外さずに、70代の「今」何をやるか。そのことをしっかり考えたいと思いました。」とインタビューで答えている(引用元:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77750)が、あえて虚しさに向き合うことで、今の自分にできることを見出していく力をもらえる小説だ。

 そして『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』。『このミステリーがすごい! 2021年版』国内編、〈週刊文春〉2020ミステリーベスト10 国内部門、〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 国内篇で1位を獲得。辻は88歳で、これは史上最高齢の快挙である。

 昭和24年、ミステリ作家をめざしている17歳の勝利(かつとし)が、修学旅行がわりの小旅行で密室殺人に巻き込まれ、キティ台風が襲来する夜には廃墟では首切り殺人が! というミステリ要素ももちろん読みごたえたっぷりなのだが、旧制中学の5年生だった勝利が、中学6年に進級するかわりに、戦後の学制改革によって男女共学となった高校の3年生になる……という設定もおもしろい。おもしろいといっても、それは実際の昭和24年に起きたこと。著者の地元・名古屋を舞台に、経験にもとづいた戦後の混乱が描きだされるのも、本作の肝である。上海から引き揚げてきた美少女への恋もあり、青春ミステリの赴きながら、重厚な歴史小説としての側面もある。とある人物がリンクする、『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』とあわせてお読みいただきたい。

■立花もも
 1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。

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